昭和の風景と秋の美しさを堪能 「乗り鉄」ホリプロ南田マネが選ぶ3つの路線
秋の鉄道旅は、旅愁をかきたてられる。
「秋の日はつるべ落としと言われるように、すぐに日が暮れます。とくに吉野の山奥は日の入りが早く、この列車は秋のわびさびを感じられます」
と話すのは、ホリプロのマネジャーで、大の鉄道好きで知られる南田裕介さん(50)。
「乗り鉄」の南田さんが最初に挙げたのが、奈良県中部を走る「近鉄吉野線」だ。橿原神宮前(奈良県橿原市)から吉野(同吉野町)まで約25キロ。
秋、列車はススキの穂が揺れ、民家の庭先に柿の実がなる市街地を抜け、山間に分け入る。やがて列車は、近鉄大和上市駅(同)と吉野神宮駅(同)の間の吉野川に架かる吉野川橋梁を渡る。全長242メートル、吉野の美しい自然と調和し、車窓からの景色は格別だ。
圧巻は夕暮れ時。日が沈んでゆくのにつれ、空の色が刻々と深くなる。オレンジ、あかね、紫──。
「あっという間に日が暮れる、あの感じを味わっていただきたいです」
次に南田さんが挙げる「小湊鐵道」も、秋は儚さを感じさせる。
「昭和にタイムスリップできる鉄道です」
千葉県の房総半島の中ほど、五井(千葉県市原市)~上総中野(同大多喜町)間、全長約39キロのローカル線。
沿線はのどかな里山の風景が広がり、そこを走るのが、ちょっと古いキハ200形やキハ40形など。旧国鉄時代に製造された国鉄型車両だ。
「駅舎もどこも古くて、昔の田舎の風景がいまだある感じです」
列車は地域の住民も多く利用する。部活帰りの学生や、仕事帰りの会社員。休日に、街に買い物に行った帰りに乗っている中学生たちを見るのも、微笑ましいという。
途中の上総久保駅(同市原市)の傍らには、一本のイチョウの大木がある。高さおよそ20メートル、樹齢70年以上。駅は無人駅。秋になると、短い列車がイチョウの大木に寄り添うように止まり、陽光を受けイチョウが黄金色に輝く。
「タイムスリップの演出を、イチョウがしてくれます」
秋の鉄道旅の魅力は、夏のようにテンションが上がるのではなく、落ち着いて行けることだと南田さん。
最後に挙げる「JR木次(きすき)線」も、そんな鉄道。宍道(島根県松江市)~備後落合(広島県庄原市)間、約82キロ。神話のふるさとを走るローカル線だ。
木次線と言えば、出雲坂根駅(島根県奥出雲町)と三井野原(みいのはら)駅(同)間の「3段式スイッチバック」が有名。両駅間は直線距離で約1キロだが、高低差は162メートル。この急勾配を列車は「Z字形」に方向転換しながら上る。全国的に珍しく、JR西日本ではここだけ。
「列車は三井野原駅の手前で、トンネルから抜け山肌を走ります。すると、少し前までいた出雲坂根駅がはるか下に見えます。それがすごいイリュージョン、驚きです」
南田さんが木次線を訪れたのは11年の秋。その時は、出雲坂根駅で途中下車し、町営バスで近くの川にかかる橋まで行って紅葉を眺めた。黄、赤、緑。多彩な色合いの紅葉が、山肌を彩っていたという。
「冬になって沿線に雪が降り積もると、列車は運休になります。秋の鉄道旅は、冬が来る前の楽しみです(笑)」
そして、鉄道好きの私(筆者)がおススメの秋の鉄道を一つ。JR四国の「JR予讃線」だ。高松(香川県高松市)~宇和島(愛媛県宇和島市)間、全長約298キロ。四国北部の海岸線を忠実にたどる鉄道で、海、川、山、そして街と、変化に富んだ車窓の眺めを楽しめる。中でも途中の下灘駅(同伊予市)は、「日本で一番海に近い駅」で知られる。
何もない無人駅のその先の海は、どこまでも青く、どこまでも美しい。見上げると、秋の空が高く澄みわたる。
秋の鉄道旅でしか味わえない、感動がある。