「終りに見た街」: 大泉洋主演のタイムスリップドラマが戦争の悲劇と家族の絆を描く
「終りに見た街」テレビ朝日開局65周年記念ドラマプレミアム
9月21日(土)夜9時から、テレビ朝日系で放送される「終りに見た街」は、山田太一の同名小説を原作に、約20年ぶり3度目のドラマ化となる作品です。テレビ朝日ドラマ初主演の大泉洋が主演を務め、宮藤官九郎が脚本を手がけます。
あらすじ
テレビ脚本家・田宮太一(大泉洋)は、代表作はなく、細々と20年間脚本家として続けてきました。家庭では、家族に疎まれつつも、しっかり者の妻・ひかり(吉田羊)、思春期真っただ中の娘・信子(當真あみ)、反抗期が始まった息子・稔(今泉雄土哉)、そして認知症が出始めた母・清子(三田佳子)と共に、ごくありふれた平穏な日常を送っていました。
ある日、プロデューサーの寺本(勝地涼)から「終戦80周年記念スペシャルドラマ」の脚本を無茶ぶりされ、断り切れずに渋々引き受けることに。戦争当時を知らない太一は、寺本から送られてきた膨大な資料を片っ端から読みふけります。
いつの間にか寝落ちしてしまった太一は、明け方、衝撃音で目を覚ますと、自宅の外には森が一面に広がり、見たことのない光景が広がっていました。混乱する太一は、外に確かめに行くと、そこが太平洋戦争真っただ中の昭和19年6月の世界であることを確信。太一たち家族はタイムスリップしていたのです。
この受け入れがたい事実に太一一家が騒然としていると、太一の亡き父の戦友の甥・小島敏夫(堤真一)から電話がかかってくる。敏夫もまた、息子の新也(奥智哉)と出かけていたところ、昭和19年にタイムスリップしてしまったという。敏夫父子と合流した太一は、やや安堵したのも束の間、すぐに戦時下の厳しい現実に直面します。
兵士に度々怪しまれる太一たちは、誤魔化しながら何とかその場を凌ぎますが、戦争に突き進む日本で生き延びるためには昭和19年の生活に順応せざるを得ません。敏夫は持ち前の人当たりの良さですぐに仕事を見つけて前向きに動き、ひかりも針仕事などできることを一生懸命やり始めます。一方、太一はなかなか現実を受け入れられずに抗います。
戦争の悲惨さと笑いの絶妙なバランス感
昭和16年12月8日、かの戦争が始まった日から間もなく80年が経過しようとしています。戦争を経験していない世代が大半を占め、私を含め、世界中で起きているもののどこか“他人ごと”と思ってしまっている人が多いでしょう。しかし、この物語はその心にずっしりと重くのしかかってきます。宮藤官九郎脚本作品らしい、笑いのスパイスをほどよく入れ込むことで、重たいテーマながら絶妙なバランス感を実現しています。
戦時中を描くドラマではありますが、同じ現代を生きる家族がタイムスリップするという構成が、私たちをどこか身近に感じさせます。太一は令和の現代からタイムスリップした身で、資料を読み「いつ、何が起こったか」を知っています。最初はただ起こった“タイムスリップ”という無茶苦茶な事実に反発するだけでしたが、徐々に起こる悲劇から人々を守るために奮闘し始めます。その姿に、より多くの人を救ってほしい、願わくば大きな悲劇が起こらないようにできないのか…と願わずにはいられません。
戦争を受け入れてしまう怖さ
本作のドラマ化は3度目。1度目は1982年、2度目は2005年と、それぞれの主人公家族が昭和19年にタイムスリップする姿が描かれてきました。そこからさらに時代の進んだ令和の2024年。タイムスリップした先の、自分たちの暮らしとのあまりの違いに驚く太一家族。そして彼らは戦時下の衝撃の現実を目の当たりにします。
もし自分たちが家ごと戦時下にタイムスリップしてしまったら、果たして受け入れられるのだろうか…。戦争は良くないもの。頭では分かっているはずなのに、そのスタンスを崩さないのは太一だけ。時代に順応するよう暮らしている中で、「こんな戦争」と言う父・太一に子供たちは反発していく。ついには「お国のために戦いたい」と戦争を受け入れ、精神的にも染まっていってしまう。そこにも戦争の“怖さ”が描かれています。
そして、物語は衝撃のラストを迎えます。その展開に、見終えたときには思わず呆然としてしまいました。その“終り”をどう受け止めるか。皆さんにも、最後までしっかりと見届けてほしいと思います。
作品を彩る豪華キャストも見どころ
大泉洋をはじめ、吉田羊、三田佳子、堤真一や神木隆之介、西田敏行、橋爪功などの豪華キャストが作品を彩っています。作中では、神木がひかりのパート先であるドッグウェア専門店のオーナー・五十嵐を、西田が太一と敏夫が食料のほどこしを乞う農夫を、橋爪が神社で子どもたちに軍歌を歌わせ、戦争の士気を高める老人を演じています。
ちょっとした役で豪華なキャストが出演しているので見逃し厳禁。取りこぼさないよう見てもらいたいと思います。