藤田慧監督が語る『仮面ライダーガヴ』のアクション美学:ポップさと野性味の融合

藤田慧監督が語る『仮面ライダーガヴ』のアクション美学:ポップさと野性味の融合

『仮面ライダーガヴ』の新旗手、藤田慧監督が語る特撮アクションへの情熱

「文字エフェクト」など斬新な手法で革命を起こす、特撮アクションの若き新旗手、藤田慧監督。『仮面ライダーギーツ』で初めてアクション監督を務め、若さあふれる感性で注目された藤田慧が新作『仮面ライダーガヴ』へ再登板!その意気込みから特撮アクションへのこだわり、そして今後の展望に迫った。

ポップと野性味の共存を図りたい

――最初に”アクション監督”というお仕事について教えてください。

藤田:作品や監督によって違いはありますが、今回は主にアクションシーンの演出から編集まで、杉原監督からアイデアをもらいながらひと通りを担当しています。また、監督の演出をサポートしたり、安全面だけを受け持つこともあります。ある場所で監督が難しい撮影を行なう場合、どんな設備と何人の補助が必要か指示するというような役割も果たしています。僕自身、スタントマンの経験があるため、特に安全面についてはよく理解しています。

――『仮面ライダーガヴ』はお菓子の力で変身する仮面ライダー。アクションシーンで意識していることは?

藤田:ひと言で言えば、ポップと野性味の共存ですね。お菓子をモチーフにしているため、仮面ライダーのデザインはカラフルで柔らかい印象があります。アクションシーンでは、そのポップさを表現するために、文字エフェクトを導入しました。例えば、グミのフォームでパンチをするときは「ムニュ」、ポテチのフォームで剣を使うときは「ザク」といった具合に、それぞれの絵文字が画面に現れます。視覚的に楽しいと思います。

――絵文字をアクションの一部としてしまうとは斬新ですね。

藤田:ありがとうございます。しかし、今回の仮面ライダーは敵と同じモンスター界から現れたという設定なので、動き自体は野性味を意識しています。低い姿勢のファイトスタイルをとったり、変身ポーズで前に倒れ込む動作を入れたり。ポップさと野性味の振れ幅を楽しんでもらえたらと思います。

――アクションシーンでは現在、CGが欠かせませんが、生身のシーンとのバランスはいかがですか?

藤田:非常に気を使っています。視聴者の方が見て「ここは肉弾戦だ」「ここはCGだ」などとわからないように、グラデーションにして、融合を目指しています。特に最近はCGが進化し、仮面ライダーは面をかぶっているため「アクションはすべてCGでいいのでは」と言われることもあります。しかし、僕はそこには陥りません。

例えば、第1話で巨大なコンテナが並ぶ場所で戦うシーンがあるのですが、実際に高いコンテナの上に立ち、塀を蹴るなど激しく動いています。不思議なもので、そうすると画面から演者やスタッフの熱が伝わってくるし、CGも生きてきます。僕は『仮面ライダー』シリーズが50年以上守り続けてきたスーツアクターのいる現場を大切にしたいんです。CG合成は不可欠ですが、生身のアクションをその歯車にしちゃいけない。令和だからこそ、デジタルだけでなく、生身の良さも大事に、絶妙なバランスを図っています。

ジオラマを作りたいと思ってほしい

――ある記事によれば、藤田監督が『仮面ライダーギーツ』で初めてアクション監督を務めたとき、仮面ライダーを人間の数倍のパワーに設定して演出されたとか。

藤田:仮面ライダーは1年続く番組なので、どうしてもパワーインフレが進むんです。でも最初から強すぎると視聴者に響かない気がするので、バランスを取ることを心がけています。

――では、今回も同じように考えていますか?

藤田:そうですね。圧倒的なパワーがあるから、なんとなく勝っちゃった的な展開が好きではありません。「瞬間移動」や「バリア」など、パワーゆえの圧倒的な技も極力抑えたいと考えています。

――少し弱いくらいがいい?

藤田:どちらかといえばそうですね。あるいは弱点やつたなさを出すなど、キャラクターに深みを持たせたいと思っています。例えば、ガヴガブレイドという剣がベルトから出てきますが、それをカッコよく抜くのではなく、ポロンと落とし、慌てて手に取るシーンがあります。あえて、つたなさを出したことで、必死さや頑張る姿が伝わり、視聴者は一緒にドキドキできるし、うまくいった瞬間はワクワクする。それがいいんです。何かと派手なものが記憶に残りがちですが、求められているのは、そんな引き算じゃないかと思います。

――監督自身、アクションシーンを演出する上で最も大事にしているのは?

藤田:「まねしたい」「再現したい」と思わせることですね。例えば、変身ポーズでいえば「子供が15分考えてギリできないレベル」のものを考えています。今回は、右手でベルトのレバーを回しながら、左手を体の前方で大きく回す。最後のキメだけはわかりやすくしたけど、パッとはできないと思います。でも、それくらいがちょうどいい気がします。

――「15分で」というのは絶妙な気がします。一方、「再現したい」とは?

藤田:わかりやすく言えば、『機動戦士ガンダム』第1話のザクを刺すシーンのジオラマがあるじゃないですか。僕の演出したアクションシーンもあんなふうにしてもらえれば。自ら形に残したい、再現したいと心を突き動かすのがいいシーンの証し。そのために、ワンシーンに印象的なしぐさや必殺技の決めポーズ、あるいはシチュエーションなどを取り入れるよう意識しています。文字エフェクトなんて、ジオラマに向いていると思いますよ(笑)。

――最後に、今後のアクションの見どころは?

藤田:新しいアイテムや必殺技が登場するのはもちろん、あとはやはり主人公ショウマ役の知念英和くんらがどう成長していくかでしょうか。何より素直で、運動神経も高いから期待がかかります。アクションは仮面ライダー作品の中で最も生身で自由度の高い部分。1年を通し、進化し続けるところを毎週楽しんでもらえたらうれしいですね。

プロフィール

藤田 慧(ふじた・さとし) 1987年生まれ、大阪府出身。2009年『仮面ライダーW』でスーツアクターとして活動開始。以降、『仮面ライダーシリーズ』や『スーパー戦隊シリーズ』に多数出演。2022年『仮面ライダーギーツ』でアクション監督を務める。ジャパンアクションエンタープライズ所属。

作品概要

『仮面ライダーガヴ』 異世界からやって来た青年・ショウマが、人間界で少年と出会ったことをきっかけに仮面ライダーガヴに変身する力を得て、人間たちを襲う知的生命体・グラニュートとの戦いを繰り広げる。毎週日曜午前9時からテレビ朝日系列で放映中。