ROXY:女性のアクティブライフスタイルを30年間支え続けるブランドの歴史と進化
ROXY:女性のためのアクティブライフスタイルブランドの軌跡
ハートのロゴが印象的なサーフブランドROXY(ロキシー)。世代によってROXYの印象は異なるかもしれないが、共通しているのは「女性のためのアクティブライフスタイルブランド」というイメージだ。1990年の誕生から現在まで、ROXYはレディースサーフブランドとして業界を牽引し続けている。今回は、ROXYブランドマーケティングマネージャーの花村朋彦さんにお話を伺い、90年代から現在までのROXYの歴史と変遷について詳しく掘り下げてみた。
1990年代:ギャルカルチャーとともに大ブレイク
ROXYは1990年に誕生した。その前身は、1969年にオーストラリアで設立されたクイックシルバーというメンズブランドだ。クイックシルバーUSAの設立者であるボブ・マックナイトが、アメリカ・カリフォルニア州に本拠地を構えて本格的にサーフブランドとしてスタートさせた。20年後、レディースブランドとしてROXYが誕生した。
「ROXYの誕生のきっかけは、アメリカの社長がハワイで、サーファーの女の子がメンズのボードショーツをビキニの上に履いているのを見かけたことです。当時はまだレディースのサーフブランドがなかった時代で、新鮮に映ったのでしょうね」と花村さんは語る。
当初、ROXYのロゴはクイックシルバーのロゴにROXYの名前をつけたシンプルなものだった。クイックシルバーのロゴは、葛飾北斎の浮世絵「富士山と波(神奈川沖浪裏)」をモチーフにしていることで有名だ。このロゴを向かい合わせ、ハートマークにしたのがROXYのロゴとなった。
1990年の誕生から3年間は、世界的に見てもROXYの認知度は高くなかった。しかし、1993年頃にアメリカの水着ブランドを買収し、ディレクターにランディ・ヒルドが就任したことで、1995年頃から世界的に広まり始めた。日本では、90年代後半にギャルカルチャーとともに大ブレイクを果たした。
サーフ雑誌『Fine』との関わりは深い。昨年、花村さんが発起人となって45周年特別号が刊行され、90年代の雰囲気が表紙を飾っている。「90年代後半はまさにギャル全盛期の時代で、ROXYもギャルに人気のブランドの一つとなりました。当時のROXYは、ギャルが好むマルキューブランドの性質もありつつ、ムラサキスポーツやミナミスポーツ、オッシュマンズといったスポーツ用品店にも並ぶブランドでもありました。スポーツブランドでありながら、ギャルブランドと一緒に着られる部分もあったので、それが人気の要因だったのかもしれません」と花村さんは振り返る。
1996年頃から、日焼けした若者が増え始め、「ギャル」という存在が世間の注目を浴びるようになった。109がギャルの聖地として認知され、ギャルブランドがにぎわせていた時代でもあったが、ROXYの直営店は109にはなかった。クイックシルバーボードライダーズクラブという直営店にROXYが置いてあり、また109にも輸入販売店があった。
当時、原宿や渋谷でROXYを買える店舗は多かった。「原宿のムラサキスポーツだけでなく、渋谷のスペイン坂にもムラサキスポーツがあり、明治通りや竹下通りにも似たような店舗がありました。当時を振り返ると、原宿・渋谷でROXYを買えるところは結構あったように思います」と花村さんは語る。
90年代のサーフブームの火付け役として、木村拓哉の存在は大きかった。木村拓哉がカリスマとして時代をリードするとともに、彼を目指す男の子も増えていった。それに寄り添う女の子像として、ROXYの売り上げも比例していった。当時のROXYは、『Fine』の読者モデルが愛用しているイメージが強かった。
「特定のミューズというよりも、『Fine』の読者モデルの影響が一番大きかったですね。当時のノリや雰囲気もROXYのイメージとよく合っていたと思います。『Fine』の存在は大きく、当時のROXYを牽引してくれたと思っています」と花村さんは語る。
2000年代:多様なムーブメントとともに
2000年代に入ると、ROXYはさまざまな場所で注目され始めた。ギャルカルチャーは徐々に落ち着きを見せてきたが、その代わりに海外セレブたちが世間をにぎわせ始めた。パリス・ヒルトンやキャメロン・ディアスなどのセレブリティが、サーフィンの際にROXYを愛用していることで注目され、また当時クイックシルバーのメインアスリートだったケリー・スレイターの影響も大きく作用した。セレブリティとも親交がある彼が、サーフィンを教える際にROXYのウエアを提案することにより、90年代とは異なる角度から注目を浴びることになった。
また、2005年頃にはプロスケーターの浅田真央が愛用しているブランドとして話題となった。「浅田真央さんの好きなブランドの一つとしてROXYの名前が挙がったときは、問い合わせが凄かったですね。当時の浅田真央さんは、まだ15歳で国民的ヒロインのような存在だったので、かなりの影響力がありました。クイックシルバー渋谷の路面店にも、よく買いに来てくれました」と花村さんは語る。
2005年頃から、リースする雑誌にも変化が現れた。『Fine』にはずっと変わらずにリースを続けていたが、ギャル雑誌ではないティーン誌が注目される時代に突入し、ティーン誌へのリースが増えていった。また、ジュニア雑誌も影響力があり、90年代と比べると、ROXYの購入層も低年齢化していった。
「ROXYが下の世代にアプローチしていくことにより、次第に中学生の人気ブランドへと変わっていきました。一方で、赤文字雑誌を中心にハワイブームもあったので、『JJ』にもROXYのアイテムが掲載されていた時代でもありました。2000年代に入ってからは、90年代とは異なるさまざまな形でROXYが注目されようになっていきましたね」と花村さんは語る。
2009年、2010年頃から、ROXYも方向転換をしていった。「この頃から、低年齢系の雑誌にリースをするのを徐々に控えるようになりました。その中で、メインとしてやはり『Fine』だけが残りましたね。ROXYのブランド自体がガラッと変わっていったのではなく、本来のブランドコンセプトでもあるプロサーファーに寄り添った感じの方が大きいです。海外では、プロサーファーに寄り添っているブランドとして変わらずにいましたが、日本ではギャルブームや、その後にティーンエイジャーからの支持など、多少なりとも時代のムーブメントによる影響は受けました。しかし、そのような背景の中で、本来のアスリートに向けたものを粛々と変わらず作り続けていたことも、ROXYが大きく時代に左右されなかった理由の一つにあると思います」と花村さんは語る。
現在:プロサーファーを支えるブランドとして
90年代から2000年代、時代のムーブメントとともに駆け抜けたROXYだが、本来はトッププロサーファーに向けたブランドとして設立された。現在も、プロロングボーダーの田岡なつみ選手やチームROXYの活躍が注目されている。
一方で、G-SHOCKとのコラボレーションや湘南茅ヶ崎の人気アイスクリームショップ『Plenty’s』とのコラボレーションも話題になっている。今後の課題について、花村さんは次のように語る。
「各年代の方との関わり方をどうするべきかは、試行錯誤の連続です。たとえば、『Fine』世代のお母さんと10代後半のお子さんとでは、情報の入手の仕方も違うし、欲しいと思う要素も違います。この部分をどう両立させながら、上の世代も卒業させず、下の世代にもアプローチするということをやっていくのが今後の課題だと思っています」
ROXYのアイテムは、サーフアイテムとしてだけでなく、スノーボードやフィットネスウエア、機能性のあるリュックなど、さまざまなスポーツを通してROXYのアイテムをセレクトする楽しさがある。若者だけではなく、スポーツに親しむ女性にとって心強いブランドであるROXY。それは、令和になっても変わることはない。
「今後も変わらずに、女性を応援しているブランドというのを発信したいと思っています。年代関係なく、スポーツを通して、これから何か始めようと思っている方も含めて応援したいですね。その象徴として、アスリートの夢や、オリンピックには行けなかったけど、セカンドキャリアとしてスクールを立ち上げようという方も応援したいです。これからも、スポーツを通して女性に寄り添うブランドであり続けたいと思っています」と花村さんは語る。
ROXYは、時代の流れに柔軟に対応しながら、常に女性のアクティブライフスタイルを応援し続けるブランドとして、これからも進化し続けることだろう。