ミューラル2025春夏コレクション：深みとドラマチックさを追求したデザイナーの情熱

ミューラル（MURRAL）の2025年春夏コレクション

ミューラル（MURRAL）の2025年春夏コレクションは、村松祐輔と関口愛弓のデザイナー2人の実直さが映し出されたものとなった。自分自身と産地、そしてファンに向き合うモノづくりをさらに強く意識した結果、クリエイションにさらなる深みが加わった。

ミューラルは、「日常に少々のドラマチックを」というコンセプトを掲げてきた。前シーズンでは洗練されたコレクションを意識したが、「きれいにまとまり過ぎてしまった」と村松デザイナーは振り返る。今季は、着る人の気分を高揚させる洋服の美しさを再考した。デザイナー2人が好きなものを改めて突き詰め、美しさの中に潜む「アク」を見いだしたという。

インスピレーション源

インスピレーション源は、ドイツ人植物学者カール・ブロスフェルト（Karl Blossfeldt）による植物図鑑「芸術の原型」だ。この作品はモノクロの色調で、花のクローズアップをひたすら掲載しており、グロテスクなほどに植物の構造を観察することができる。このインスピレーションから、ミューラルのコレクションは、ひと癖あるディテールの連続退廃感や不気味さを仕込んだ。

ファーストルック

ファーストルックは、種をイメージしたメッシュキャップに、花柄のようなペイントがにじんだロングスリーブドレスだ。これは関口デザイナーのオイルペインティングで描いたモチーフをプリントしたもので、同柄のオールインワンやキャミソールドレスも続いた。コレクション全体を通して、花のディテールが落とし込まれている。アブストラクト柄のニットドレスは、実は花柄だったモチーフを削り出して作ったもので、バルーンシルエットのミニドレスは奇妙な釣鐘型の花の形を模していた。

ディテールのこだわり

タンクトップを彩るコード刺しゅうは植物のツタを、チンツ加工でレザー調にしたサテンのボレロは艶かしい花の艶感に着想しており、単なるフラワーモチーフの再現に終わらない点がミューラルらしさを強めている。カラーパレットにはブラックを多用し、「芸術の原型」がモノクロであるため、退廃感と不気味さを表現した。

アクセサリー

アクセサリーにもミューラルらしい「ドラマチック」が盛り込まれた。ブランド初となるレザーバッグはスクエア型のボディーで、日常使いするアイテムだからこそ、得意とする繊細な刺しゅうで華やかにデコレーションした。チェーンとガラスビーズで作る人気のボディージュエリーは、艶消し加工のマットビーズでスカートやミニドレスを編み上げ、「着るジュエリー」にアップデートした。

産地との協業

今シーズンも産地との協業を積極的に行い、新潟のニットや京都のプリント技術を用いた。特に、村松デザイナーが「どうしてもみなさんに知ってほしい」と熱量を注いだのが、オーガンジーのドレスやスカートだ。フラワーモチーフの刺しゅうは、石川県のとある機屋が手掛けたもの。今年1月の能登半島地震で被害を受け、経営存続の危機にあったところ、2人は無理を承知で協力を依頼した。

技術の特徴

花のデザインにはコード糸とコットン糸、レーヨン糸、かすり染め糸の4種類を使っている。特にコード糸はかなりの太さで、国内では同工場のミシンでしか縫い付けができないという。「時間と手間がかかる技術だが、これからの服作りにつながるものを一緒に作りたかった。この機屋の存在をできるだけ多くの人に伝えたい」と村松デザイナーは語る。

ショーの意義

多額の予算を投じてまでショー形式での発表を続けるのは、ビジネスのためであり、ファンのためでもある。「ただファッションが好きで、ブランドを愛してくれる人に伝えたいし、楽しんでほしいから。僕たちのショーのゲストは、一般の顧客さまが4割で、ここまで多いブランドはなかなかないと思う」。ショーを通じて届けるファンや作り手への愛情の強さは、フィナーレでのデザイナー2人の深々としたお辞儀が証明していた。

ミューラルの2025年春夏コレクションは、デザイナー2人の情熱と産地との協業が結実した、深みのあるコレクションとなった。