「らしさ」に囚われない、本当の自分を探して

「らしさ」に囚われない、本当の自分を探して

主人公の海老原勝男は、イケメン御曹司としてモテ人生を歩んできたが、恋人に選んだ鮎美にプロポーズしてフラれてしまう。鮎美は筑前煮を上手に作ることができる、いかにも良妻賢母的な女性だった。勝男は鮎美が作ってくれた料理に不満を抱いていたが、それは鮎美の良妻賢母ぶりを知らずに mouthsしていた。ひとり身となった勝男は、合コンや逆ナンパをするが、女性から筑前煮を作ることができるかを聞かれ、残念なイケメンだと言われてしまう。

勝男は同僚のアドバイスを聞いて筑前煮を自分で作ってみることにし、経験者にはわかると思うが、筑前煮はものすごく手間のかかる料理だと気づかされる。勝男はネットを参考に料理していたが、料理上手の同僚に頼ることができるようになり、手抜きだとバカにしていためんつゆや顆粒だしへの認識を改める。

本作は、料理を通じて人間関係のよりよいあり方を模索していく物語である。勝男の兄が登場するエピソードでは、男らしくあらねばという呪いが勝男よりもはるかに強くかかっている兄の鷹広が上手に弱音を吐くことができない様子が描かれる。勝男は兄の気持ちを少しでも楽にしたくて、とある料理に挑戦する。

勝男が自分を変えようと努力する一方、これまで良妻賢母を演じてきた鮎美にもまた自分らしさを巡る葛藤がある。「らしさ」に囚われがちな人々にとって、彼らの物語は決して他人事ではないだろう。