『魔神バンダー』:忘れられたヒーローとその悲劇的な結末

『魔神バンダー』:忘れられたヒーローとその悲劇的な結末

『魔神バンダー』の放送開始とその魅力

1969年1月から3月にかけて、フジテレビ系で全13話が放映された特撮ドラマ『魔神バンダー』をご存知でしょうか。この作品は、巨大ロボットものとして知られていますが、『ジャイアントロボ』(1967年~68年)や『ジャンボーグA』(1973年)などの知名度に比べると、やや影が薄い存在です。しかし、その独特の魅力と印象的なシーンは、多くの視聴者に忘れられない作品となっています。

オープニング曲とバンダーの造形

『魔神バンダー』のオープニング曲「魔神バンダーの歌」は、そのパワフルな歌唱で子供たちの心を捉えました。バンダーのユニークな造形も特徴的で、普段は丸い目をしたかわいらしい顔をしていますが、怒ると顔が胴体に引っ込んで、鬼のような赤い顔が現れます。この怒った顔のバンダーは、王子以外には誰にも止めることができないという設定が、作品の緊張感を高めています。

『魔神バンダー』のストーリー

主人公は、パロン彗星から地球にやってきた王子(角本秀夫)です。王子は銀色のフードを被り、1960年代らしい宇宙人のファッションをしています。王子の護衛役はX1号(平松慎吾)で、金髪のおじさんです。パロン彗星人は高い文明を持っていますが、手先がカニのハサミのようになっているのが特徴です。

王子とX1号は、パロン彗星から持ち出された宇宙エネルギー物質「オラン」を探しに地球を訪れます。オランを探しながら、王子たちはゴーダー一味ら地球の悪党たちと戦います。バンダーは王子の命令に忠実に従う守護神で、普段はかわいらしい顔をしていますが、怒ると鬼のような顔に変化します。

最終回の衝撃的な展開

『魔神バンダー』は低予算な雰囲気を漂わせていますが、印象に残っているのが最終回です。王子たちが探していたオランは、とある雑木林で簡単に見つかります。この展開は「なんじゃそりゃ」と言いたくなるようなご都合主義ですが、そのおかげで王子たちは無事にパロン彗星に帰ることができました。

しかし、王子たちがバンダーとともに地球を去る直前に、大事件が勃発します。某国で実験中だった核ミサイルが誘導装置の故障で、極東へ向かって飛んでいるという臨時ニュースが報じられます。王子は、知らん顔してパロン彗星に戻るか、バンダーの力を使って核ミサイルを止めるか、究極の選択を迫られます。

バンダーの真実と悲劇的な結末

立花博士(湊俊一)とのやりとりから、バンダーがただのロボットではなく、生命体であることが明らかになります。核ミサイルが日本で爆発しそうだとニュースが伝えられ、心優しい王子は日本人たちを見捨てることができません。バンダーに核ミサイルの処理を命じます。最終回では、バンダーは最初から怒った顔モードで、空を飛ぶバンダーは核ミサイルと正面衝突し、空中で大爆発します。バンダーのおかげで、日本は核被害から逃れることができました。

忠実なバンダーに対し、残酷な指令を出した王子は、泣きたくても泣けません。バンダーを失った王子とX1号は、永遠にパロン彗星に帰ることができなくなってしまいました。立花博士は「若者たちは飛行機もろとも敵艦に体当たりして、祖国を守ろうとした」と戦時中の日本の話を持ち出しますが、王子の慰めにはならなかったように思います。

子供向け番組らしからぬ二重のバッドエンド

子供向け番組らしからぬ、二重につらいバッドエンドが、『魔神バンダー』を忘れられない特撮ドラマにしています。バンダーの犠牲と王子の悲劇的な結末は、視聴者に深い印象を残しました。

『魔神ガロン』との関係

『魔神バンダー』には、手塚治虫先生の作品との深い関係があります。エンディングに使われていたバンダーや王子たちの原画マンガは、手塚治虫先生の絵柄とそっくりでした。手塚治虫原作ではない『魔神バンダー』に、手塚治虫ふうのキャラクターたちが使われていたことに、子供心に妙な違和感を感じた人も多かったでしょう。

国会図書館でマンガ版『魔神バンダー』全4巻を借りて読むと、マンガ版の作者は「井上智」であることが分かりました。井上智氏は「虫プロ」漫画部に所属し、その後独立。手塚治虫先生のアシスタントだった平田昭吾氏らと「智プロ」を設立し、「冒険王」(秋田書店)にてマンガ版『魔神バンダー』をTV放映に先駆けて連載しました。

『魔神ガロン』の実写化の試み

もともと、『魔神バンダー』は手塚先生のマンガ『魔神ガロン』を実写ドラマ化しようとしたものの、頓挫し、その代案として誕生した作品です。『魔神ガロン』は、高い文明を持つ宇宙人が地球人の良心を試すために悪魔にも神にもなりうるガロンを送り込んだという、ハードな設定のSFストーリーです。もし、しっかり完結していれば、横山光輝マンガ『マーズ』ばりの問題作になっていたはずです。ポリゴン的なガロンのビジュアルとシリアスなテーマ性は、子供向け番組には難しいとテレビ局側は判断したのかもしれません。

そこで別の手塚作品『ピロンの秘密』と『魔神ガロン』を組み合わせ、勧善懲悪スタイルの『魔神バンダー』が生み出されました。いわば『魔神バンダー』は、手塚治虫公認の非手塚治虫作品だったと言えそうです。

その後の手塚先生の挑戦

手塚先生はその後も『魔神ガロン』の実写化を諦めず、1970年代に再挑戦していますが、やはり実現せず、代わりに「東洋エージェンシー(現・創通)」と「ひとみプロ」の共同制作による特撮ドラマ『サンダーマスク』(1972年~73年)が日本テレビ系で放映されました。しかし、『サンダーマスク』も著作権利が分散し、ソフト化されずに至っています。

手塚先生は1978年に放映された「24時間テレビ」(日本テレビ系)のアニメスペシャル第1弾『100万年地球の旅 バンダーブック』を制作し、主人公に「バンダー」という名前を付けました。バンダーという名前に、それなりに愛着があったことが伺えます。

『魔神バンダー』と『サンダーマスク』の現在

今もソフト化されずに「幻のヒーロー」でいる『魔神バンダー』と『サンダーマスク』は、多くのファンに愛おしく思えます。これらの作品が、いつか再評価され、新たな世代にも伝わることを願っています。