「サザンオールスターズ」の46年：音楽評論家・小貫信昭が語る、彼らの歴史と魅力

『いわゆる「サザン」について』：サザンオールスターズの46年を追う

1978年、サザンオールスターズは「勝手にシンドバッド」でデビューし、以来46年間、日本の音楽シーンに大きな影響を与え続けています。街中や自宅で、彼らの音楽は当たり前に流れていますが、その歩みや喜怒哀楽を知っている人はどれだけいるでしょうか。

音楽評論家の小貫信昭さんが、サザンオールスターズの歴史を「物語」として読むことができる初めての本『いわゆる「サザン」について』を上梓しました。小貫さんは40年以上にわたりサザンオールスターズを取材し、現在でも年に4、5回、フロントマンの桑田佳祐にインタビューを行っています。本書は、その経験と知識を活かして書かれた、本邦初の「サザン史」の決定版とも言える一冊です。

「今回の執筆に際しても、改めて桑田さんにお話を聞くことができました。そういう意味でも、これ以上ないものになっているんじゃないかと思います」と小貫さんは語ります。

本書では、誰もが知る楽曲の知られざるエピソードが満載です。例えば、「真夏の果実」の歌い出しはなぜ〈涙があふれる　悲しい季節は〉なのか。「マンピーのG★SPOT」は最初からエロな路線を狙っていたわけではなかったなど、個々の楽曲について、いまさら聞けないようなことも一つひとつ聞き出すことができました。ときには食い下がりながら（笑）、具体的な質問を重ねていったそうです。

サザンオールスターズが、ロックバンドとして、音楽人としてもがいてきた道筋も描かれています。「執筆もたけなわの頃、桑田さんから『サザンの、よくよく取り上げられる陽のあたる部分だけじゃなく、それ以外のところも描いて欲しい』というメッセージをいただいたんです。とはいえ陰の部分を必要以上に探して書いたわけではありません。作品が出て勢いづくまでの、模索の期間というのは多分にある。そこでのエピソードはすごく重要だと思っていたので、しっかりと盛り込んでいます」と小貫さんは述べています。

また、サザンオールスターズのバンド活動と、桑田佳祐をはじめメンバーのソロ活動が、ひと続きに語られるのも本書の特徴です。「サザンオールスターズの歴史は、連続線ではなく、非連続線。バンドを休み、ソロで個を突き詰めて、再びバンドに戻ってくる時期が何度かありました。特に90年代中頃の、桑田ソロ作『孤独の太陽』からサザンの『Young Love』へ至るあたりは、桑田さんのなかでも大きく振り子が揺れていて、結果、バンドの推進力につながった時期だと思いますね」と小貫さんは解説します。

本書には、桑田佳祐の言葉が随所で挿入されています。なかには「これこそがサザンの“やめそびれた歴史”というか……」といったものもあります。結成前夜から始まって、近年のコロナ禍での横浜アリーナ無観客ライブや、45周年を迎えての茅ヶ崎ライブの舞台裏までを追いかけたあとだと、この言葉も違った響きで、胸に残るでしょう。

最後に、本書の印象的なタイトルも、桑田佳祐からの提案だったそうです。「評論家である僕と彼らとの距離感を、絶妙に表現してくださったなと。『いわゆる』という言葉には、パブリックイメージの中の、みたいなニュアンスもありますが、そこに読者の方それぞれの『サザン』を重ね合わせていただき、でも読み終えたとき、また別の真実に辿り着く本だとしたら本望ですよね。彼らの凄さは、どの時代にも活動のピークが存在することで、それを証明する本にもなりました」と小貫さんは締めくくっています。

小貫信昭のプロフィール

小貫信昭（おぬきのぶあき）は1957年東京都生まれ。1980年、『ミュージック・マガジン』を皮切りに音楽について文章を書き始め、音楽評論家として40年以上のキャリアを持ち、長年にわたりサザンオールスターズの魅力を言葉として紡ぎ続けてきました。著書には『Mr.Children 道標の歌』『槇原敬之 歌の履歴書』などがあります。

まとめ

『いわゆる「サザン」について』は、サザンオールスターズの46年間の歴史を深く掘り下げ、その魅力と苦悩を描いた一冊です。音楽評論家の小貫信昭さんの長年の取材と桑田佳祐との信頼関係が、本書の豊かな内容を生み出しています。サザンオールスターズのファンだけでなく、日本の音楽史に興味のある方にとっても、必読の一冊と言えるでしょう。