パナソニックとFastLabel、AI開発効率化へ協業:Data-centric AIプラットフォームとHIPIEの統合
パナソニック ホールディングスとFastLabelが協業、AI開発効率化へ
パナソニック ホールディングスは、パナソニックグループのマルチモーダル基盤モデル「HIPIE」の開発効率を高めるため、FastLabelと協業すると発表した。この協業により、HIPIEとFastLabelの「Data-centric AI プラットフォーム」を統合し、自動アノテーションモデルを構築する計画だ。
HIPIEとData-centric AIプラットフォームの統合
パナソニックは、この統合により、AIの開発効率を向上させ、アノテーション(AI学習のデータに注釈を付与すること)に関わるコストの削減と高精度化の両立を目指す。2024年11月から段階的に導入を進める予定だ。また、HIPIEについては、大規模言語モデル(LLM)をストックマークと共同開発する「Panasonic-LLM-100b」に置き換えて社内データなどを反映させ、AI開発の高度化を図ることも明らかにした。
自動アノテーションの効果
HIPIEとData-centric AIプラットフォームの連携により、パナソニックグループ全体のAI開発の効率化と高度化が実現する。具体的には、例えば、冷蔵庫内のトマトを事前学習がなくても、「これがトマトである」と指定すればトマトとして認識される。この作業にData-centric AIプラットフォームによるユーザーインターフェース(UI)やデータ管理の仕組みを用いることで、ワークフローが劇的に改善される。これにより、手作業だったアノテーションが自動化され、1つの物体当たり60秒を要していた作業が5秒に短縮される効果がある。冷蔵庫AIカメラの学習データの構築が効率化される。
また、特定の部品の傷や摩耗を画像からAIで判断するケースでは、従来は熟練者のノウハウが必要だったが、Data-centric AIプラットフォームのUIを用いて、AIの専門知識を持たない現場担当者でも分析対象データに特定の情報やラベルを付ける作業ができる。これにより、ツールが使いにくいという課題も解決され、アノテーション作業にAIエンジニアの工数を割きたくないというケースにも貢献する。
FastLabelのData-centric AIプラットフォーム
FastLabelは、2020年1月に創業したスタートアップ企業。Data-centric AIプラットフォームは、直感的に利用できるUIを採用し、エンジニアだけでなく非エンジニアでも簡単に利用できるのが特徴だ。データ管理やアノテーション、モデル学習、評価までの一貫したAI開発を可能にしている。同社は、国内数百社のアノテーション代行事業を展開しており、機能の改善、新技術の取り込みを通じて、アノテーション自動化の仕組み作りを進めている。
パナソニックのAI戦略
パナソニック ホールディングス テクノロジー本部デジタル・AI技術センター所長の九津見洋氏は、AIの適用で幅広い事業領域のそれぞれの現場において固有のデータ構築を進めており、この作業量の多さがAI開発のボトルネックになっていると述べた。特にアノテーションが課題で、AI開発プロセスで多くの手間と時間を要し、拡張性を阻害する要因となっている。HIPIEとData-centric AIプラットフォームの連携により、ボトルネックのアノテーションプロセスが劇的に改善され、AI開発が加速できると期待している。
例えば、多くの人物が写っている画像から人間の輪郭を手作業で検出してアノテーションを行うと、1人の輪郭を捉えるのに2~3分ほどかかる。10人分では30分程度の作業時間になり、教師データとして活用するには数千枚以上を対象にした作業が必要になることから、全体で約2カ月間を要してしまう。今回の協業で、こうしたアノテーション作業が大きく削減され、AI開発期間が短縮できる。
HIPIEの特徴
HIPIEは、パナソニックが米カリフォルニア大学バークレー校と共同開発したマルチモーダル基盤モデル。LLMの事前知識を生かして、任意のテキスト入力に基づき、セグメンテーションタスクを実行できる画像認識モデルだ。プロンプトで指定した未学習の物体をゼロショットで認識できる。検出対象の詳細な条件を指定して、検出を行うデータセットに対して、世界最高レベルの性能を達成するなど、優れたセグメンテーション機能が特徴となっている。
FastLabelのCEOの見解
FastLabel 代表取締役 CEO(最高経営責任者)の鈴木健史氏は、「AIは『新しい電気』と言われ、今後AIへの依存度が増すとAIの停止が社会活動の停止に直結する時代が来る。電力インフラのようにAIを開発・供給することが求められる。そうした時代に向け、社会基盤としてのAIインフラを構築する企業を目指している」と述べた。さらに、「AIではアルゴリズムのコモディティー化が進展する一方で、従来モデルを中心としたAI開発からデータ中心のAI開発にシフトしつつある。しかし、AI開発工数の90%が教師データ作成に費やされ、教師データに対するイノベーションも生まれておらず、効率化が進んでいない。当社はそれを改善するためのプラットフォームとプロフェッショナルサービスを提供し、顧客からのフィードバックを基に改善を進めて、AI開発の効率化を実現している」と語った。
パナソニックのAI戦略の基本姿勢
パナソニック ホールディングスの久津見氏は、グループのAI戦略の基本姿勢にも言及。「全ての事業会社がビジネスでAIを活用できるよう技術やツール、ノウハウを提供している。家電や家、エンターテインメント、B2B(対法人ビジネス)、デバイス、車載機器など幅広い事業分野があり、特定のAI技術をそれぞれの事業でいかに早く使えるようにするかが重要になる。現場ごとのデータ構築やチューニングが必要になり、スケールが難しいという課題とともに、リアル空間に適用するため高い品質や信頼性も求められる」と話す。
さらに、「より多くのお客さまに寄り添い、AIをお届けする技術を開発すべく、データから実装まで一貫したAI開発プロセスを高度化し、責任あるAI活用を加速している。あらゆるお客さまに素早くお届けするScalable AIとあらゆるお客さまの信頼に応えるResponsible AIを掲げている」と述べた。
結論
パナソニック ホールディングスとFastLabelの協業は、AI開発の効率化と高度化に大きく貢献する。HIPIEとData-centric AIプラットフォームの統合により、アノテーション作業の自動化が実現し、AI開発期間の短縮とコスト削減が可能になる。これにより、パナソニックグループ全体のAI開発が加速し、幅広い事業領域でのAI活用が促進される。また、FastLabelのプラットフォームは、非エンジニアでも簡単に利用できる直感的なUIを採用しており、AI開発の民主化にも貢献する。今後、両社の協業がどのように発展していくか、注目が集まっている。