ファーウェイ、新AI半導体でNVIDIA代替に挑む:中国市場の半導体自給自足へ
中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)が新型AI(人工知能)半導体の開発の最終段階に入り、既に中国の大手サーバーメーカーにサンプル提供を始めた。この製品は、米国の対中輸出規制により入手が困難な米エヌビディア(NVIDIA)製GPU(画像処理半導体)の代替品として、近く本格的な売り込みを始める予定だ。
香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)によると、ファーウェイは中国の大手サーバー企業に新製品「昇騰(Ascend)910C」をサンプル提供し、ハードウエアのテストと構成設定を行っている。この半導体は、現行の「Ascend 910B」の性能を高めた製品で、中国の大手インターネット企業にも提供された。これらの企業はいずれもエヌビディアの大口顧客だという。
2024年8月には、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)や英ロイター通信などは、中国の大手企業がAscend 910Cの調達について、初期段階の協議をファーウェイと行っていると報じていた。大手企業には、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の親会社である北京字節跳動科技(バイトダンス)、IT大手の百度(バイドゥ)、国有通信最大手の中国移動(チャイナモバイル)などが含まれる。ファーウェイは24年10月の出荷開始を目指しているが、最終的な納期は変更される可能性がある。
新型AI半導体の開発は、米国の対中輸出規制により、エヌビディアが中国に最先端品を供給できなくなったことを受けたものだ。ファーウェイは、その穴を埋めたいと考えている。ファーウェイによると、23年時点で中国の主要70種の大規模言語モデル(LLM)のうち、約半数の訓練にAscendシリーズが活用された。ファーウェイはAscend 910Bの性能がエヌビディアの主力製品に匹敵するとアピールしている。SCMPによれば、この半導体は現在、中国の複数の業界でエヌビディア製品の代替になっている。
一方、エヌビディアは米国規制の技術基準を下回る製品を開発・投入し、中国市場で事業活動を継続している。米商務省は22年10月、AI向け先端半導体を中国などの「懸念国」に輸出することを原則禁じた。これにより、生成AIなどのAIシステムで業界標準となっているエヌビディア製GPU「A100」と「H100」の中国への輸出ができなくなった。そこで同社は、規制基準を下回る性能のGPU「A800」と「H800」を開発し、中国などで販売を再開した。
しかし、バイデン米政権は1年後の23年10月に規制強化を発表。中国などに対する米国製先端半導体・装置の輸出規制対象を広げた。これにより、A800とH800も輸出できなくなった。この「いたちごっこ」のような状況は、ジーナ・レモンド米商務長官によって非難されたが、依然として続いている。エヌビディアはその後、米政府が新たに定めた性能基準を下回る3種のGPUを開発した。3種とは「HGX H20」「L20 PCIe」「L2 PCIe」である。これらのGPUは、AI向け最新機能の多くを搭載しているが、新規制に準拠するため、一部のコンピューティング能力が抑えられている。
エヌビディアは24年3月に開いた開発者会議で、次世代GPUシリーズ「Blackwell(ブラックウェル)」を発表した。そのうちの「B200」は、チャットボットのようなタスクにおいて、前モデルに比べて30倍の高速性を実現する。ロイター通信によると、エヌビディアはB200の中国向け製品「B20」の市場投入準備も進めている。中国販売パートナーの1社である浪潮集団(Inspur Group)と協力している。このB20の出荷は25年4~6月期に始まるとみられている。
SCMPによると、エヌビディア製HGX H20への需要は当初低迷していたが、ここ数カ月で着実に伸びている。中国のクラウドサービスプロバイダーにとってエヌビディア製品にはメリットがあるという。エヌビディアから正規の技術サポートや保守サービスが受けられるからだ。
これに対し、ファーウェイの顧客企業は、同社製半導体を使用したAI開発において様々な問題に直面していると報じられている。英フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、Ascendを使用する企業から、ソフトウエアのバグや、エヌビディア製品からの切り替えの難しさといった不満が相次いでいる。その理由として、(1)チップの安定性の問題、(2)チップ間の通信速度の遅さ、(3)ファーウェイ独自のソフトウエア「CANN(Compute Architecture for Neural Networks)」の性能不足、などが挙げられている。
ただ、ファーウェイ製AI半導体に対する需要は依然として強い。同社は24年8月29日、同年1~6月期の売上高が前年同期比34%増の4175億元(約8兆5500億円)だったと発表した。当時の輪番会長、徐直軍氏はこのときの声明で「私たちの全体的な業績は、予想通り好調だった。今後も、すべてのビジネスプロセスで高品質を推進し、ポートフォリオを最適化してビジネスのレジリエンス(強じん性)を高め、活気あるエコシステム(経済圏)を構築する」と自信を示した。