早川隆久、コミュニケーション力とルーティンの確立で楽天のエースへ

早川隆久、コミュニケーション力とルーティンの確立で楽天のエースへ

楽天のエースへと成長した早川隆久

今季11勝を挙げ、楽天のエース格に成長した4年目の早川隆久。彼の成長には、春に起きた「ある騒動」が大きな影響を与えた。この騒動を経て、早川はコミュニケーションの重要性を学び、その結果、パフォーマンスが大きく向上した。

登板日の心境の変化

先発ピッチャーの多くは、登板当日になるとナーバスになる。1週間に1度のマウンドのためにコンディションを整え、パフォーマンスを最大限に発揮するべく全神経を集中させる。チームメートやコーチ、スタッフはその意欲を慮り、気を散らせまいとあえて距離を取る。楽天の早川隆久も少し前まではそうだった。

しかし、現在の早川は様子が異なる。登板日の全体練習から穏やかな表情で他の選手と談笑し、尖った様子は微塵も感じられない。早川自身、この変化について次のように語っている。

「これまでは登板日の朝からゾーンに入れていたんですけど、マウンドに上がるまでの時間が長すぎて、集中力を高めきれないことが多かったんですね。だから、『オンとオフの切り替えをはっきりさせたほうがいいんじゃないか』ということで、試合の数分前から一気に入れるようにしたら、それが自分にとってはいいんじゃないかと思えるようになって」

ルーティンの確立

全体練習後に食事を摂り、ミーティングを終えてからピッチングの最終調整に入る。そして、試合直前に音楽アプリでDJのリミックスを脳内に流し込む。ここでようやく、早川が戦闘モードのスイッチをオンにする。自分に適したルーティンを手に入れることによって、早川のパフォーマンスはより安定感を増している。11勝、防御率2.37、150奪三振の成績はパ・リーグ上位に位置する(成績はすべて9月27日現在)。昨年までの3年間で通算20勝のプロ4年目のピッチャーは、「エース」と呼ばれる存在へ大きな一歩を踏み出した。

海外リーグでの経験

このパフォーマンスを実現させる背景には、前述したルーティンだけではなく、早川が経験した数々の変化がある。その中で彼が第一に挙げるのが、昨年末に派遣されたオーストラリアでのウインターリーグの経験である。成り上がりを志す若者が、野心をこれでもかというくらい放出させている。早川はそんな各国の選手たちの姿に、自らに不足していたものを見出した。

ピッチャーとしては好奇心だ。海外の選手たちは、変化球ひとつとっても握り方から遊び感覚で意欲的に投げている。その中で自分に適した球種を導き出すプロセスに、早川は「自分にはそういった熱量が足りてなかったんだな、と思わされました」と共感を覚えた。

それ以上に早川を奮い立たせたのが、彼らの心——強烈な自我である。とりわけ、野球を始めた頃からメジャーリーガーを目指す北中米の選手は、所属するチームにおいて常にクビと隣り合わせの環境に身を置く。その現実があるからこそハングリー精神を打ち出すのだ。ピッチャーであれば「自分はこのボールを投げたい」と、キャッチャーに対してしっかりと自己主張する。これはつまり、「リリース」されないために人任せではなく、自己責任でプレーを完結させたいという意志表示に他ならない。

ウインターリーグでの成功体験

オーストラリアでのウインターリーグで4試合に登板し4勝、防御率1.00。海外で結果を出せたことが早川にとって大きな成功体験となった。オフを返上しての武者修行を経て臨んだ今シーズンも、オープン戦で3試合に投げ2勝、防御率1.62とアピールに成功した左腕は、初めて開幕投手に任命された。

急成長の若手を襲った「小さな躓き」

変革を果たし、歩みも順調。そんな早川に若干の躓きが生じたのは、今シーズン4試合目の登板となった4月19日の西武戦だった。3回まで5失点。それが、4回にキャッチャーが太田光から石原彪に代わると、降板する7回まで2安打、無失点とピッチングを好転させた。

問題は、この後だった。試合後の早川は、同世代でプライベートでも仲の良い石原への感謝を表すために「自分の投げたいボールをわかってくれている」といった趣旨のコメントを残した。これが先発マスクを被った太田への「批判」だと、周囲に受け取られてしまった。

早川の反省と和解

ウインターリーグでの成功体験は、早川に自信と自立を与えた。だが、そこにフォーカスしていたことへの悔過は本人もわかっていた。

「オーストラリアでの経験からいい意味で自分を出せていたところがありながら、それが逆にコミュニケーション不足となってしまったところが反省で。今、振り返ると、配球面とか自分を押し付けすぎていた場面があったんだと思っています」

西武戦での波紋を重く受け止めた早川は翌日に太田へ謝罪し、互いの意見を理解し合って和解した。次の登板である5月3日のロッテ戦。太田とのバッテリーで9回1失点の完投で勝利し、ともに上がったお立ち台で、早川が「お騒がせしてすみません」とファンに頭を下げ、一件落着となった。

コミュニケーションの大切さ

雨降って地固まる。結果的にこの出来事は、早川を脱皮させる大きな分岐点となった。

「あれが本当にキーだったというか。太田さんと会話が増えましたし、お互いの不安を解消させた上でフィールドに立てるようになりました。コミュニケーションの大切さというものを改めて感じています」

早川と太田はとにかく言葉を交わす。試合前、試合後はもちろん、試合中であろうとマウンドからベンチへ戻る短い間に、互いの考えを擦り合わせるようになった。

それだけではない。コミュニケーションの重要性を頭と体に沁み込ませた早川は、普段は接する機会の少ない野手とも積極的に会話するようになっている。外角低めの変化球にもしぶとく食らいつき、逆方向へヒットを放てる村林一輝。あらゆる方向へ的確にバントし、きわどいコースをファウルで対処できる器用さのある小深田大翔。早川が苦手とするタイプのバッターに、「どういう配球が嫌ですかね?」と意見を求めることで、ピッチングのバリエーションも増えている。

「野手ともコミュニケーションを取ることで、バッター心理がよりわかるようになったというか、新たな引出しを見つけられるようになったことも大きいと思います」

早川の快投とチームへの貢献

他の選手とのコミュニケーションの成果をマウンドで体現できるようになった早川は、楽天の左腕で初の2桁勝利に到達した。クライマックスシリーズへの進出を懸け、ロッテと熾烈な争いを展開するチームにおいて、早川の快投は必要不可欠となる。

和を以て貴しと為す。ちょっとした受難から宿した精神は、今や早川の勝利のカギとなっている。