笑福亭鶴瓶の継続哲学:古典落語から現代まで、芸の力と伝統の継承

笑福亭鶴瓶の継続哲学:古典落語から現代まで、芸の力と伝統の継承

「継続は力なり」という言葉は、ありふれた常套句だが、笑福亭鶴瓶とテレビの歴史を振り返ると重みが変わる。『鶴瓶の家族に乾杯』29年、『きらきらアフロ™️』23年、『ザ!世界仰天ニュース』23年、『A-Studio+』15年。本人は長く続けることを一番の目標にしたことはないとしつつも、「長く続いたらいいなぁ」とは常に願ってきたという。初見でパワーを見せつけるタイプではなく、時間をかけて自分の芸を知ってもらえたらとの自己分析からだった。

では、結果的に長寿番組を生み出す=継続させるコツはあるのだろうか?

「ダレないことだと思います。始めた頃の想いをずっと抱き続けられるか。たとえば『A-Studio+』では、ゲストに会う本番の前段階でかなりの準備がある。しんどい作業ではあるが、その準備が一番おもしろいと思って始めているんです。ゲストをよく知る人たちへの周辺取材を重ねるんですが、木村カエラがゲストの時にCHARAが出てくださって。ふたりで曲を作った時の話をしてくれたんです。カエラが『愛してる』という言葉を歌うのが苦手という話になり、CHARAが『瑛太のことを想って言ってごらん』とアドバイスしたと。そしたらカエラは、壁に向かってCHARAに背中を向けたままで『愛してる』とちっちゃい声で言ったんです。めちゃめちゃいい話じゃないですか。しかも、CHARAなんてなかなか会えないすごい人。だから、いまでも『A-Studio+』の準備にダレることなんてありえないし、ずっとおもしろいんです」

落語の場合、江戸時代から続く伝統芸で、400年以上も継承されてきた。若い頃はテレビやラジオなどのメディアを主戦場とし、50歳を過ぎてから本格的に落語と向き合ってきた笑福亭鶴瓶だからこそ感じる、落語の「継続力」がある。

「時代時代、その時々で、古典を自分也にキャッチして、いかに今様にしゃべるか。噺の大切な部分は崩さずにね。それを試行錯誤してきた先人がいるからこその継承だと感じます。今度の落語会のトリでやろうと考えているのは古典落語の『子は鎹(かすがい)』という噺です。大別して2パターンのやり方が継承されている。夫婦が別々に暮らすようになる。息子がいる。さて、母親と暮らすのか、父親と生活するのか。僕は、映画でいうとダスティン・ホフマンの『クレイマー、クレイマー』のように、息子が父親と暮らすほうが好きです。師匠(六代目笑福亭松鶴)もそっちでやってましたし、自分也にある気持ちを足したりもしていて。演者が感じる想いをプラスできるところも、古典落語のすごさだと思います」

メディアと舞台を縦横無尽に行き来する落語家・笑福亭鶴瓶。若かりし頃にアフロヘアにしていたのは、「落語=古臭い」とナメられるのが嫌だったから。キャリアを重ねてからは、ジャンルを問わず若い表現者に「表通りに店を出せ」とエールを贈ってもいる。「わかる人だけわかればいい」という考え方を肯定できなかったからだ。

「マニアックがダメだと言いたいわけじゃないんです。むしろ、すごく大事。でもね、万人にわかるものをベタとするのならベタもすごく大事なんです。だからこそ、表通りに店を出さないとベタの大切さに気づけない。売れる売れないじゃなしに、とにかく表通りに店を出す心意気が大切だということ。もしも僕が表通りに店を出すことを目指さなかったら、会えていなかったんじゃないかなぁ、CHARAには(笑)」

大切なことは2つでセットなのかもしれない。落語を守りながらも変えるということ。マニアックもベタも大事だということ。笑福亭鶴瓶版『子は鎹』は、さて?