「地面師たち」のワンシーンに秘められた司法書士のプライドとリアリティ

「地面師たち」のワンシーンに秘められた司法書士のプライドとリアリティ

ドラマ「地面師たち」を監修した司法書士の長田修和さん(57)は、不動産取引を巡る詐欺集団を描いたこのドラマの監修について語った。

2017年に積水ハウスの地面師事件が起きた後、不動産経済研究所の依頼で地面師に関する講演を行った。その講演に参加していた作家の新庄耕さんが執筆した小説版「地面師たち」(2019年)の監修を依頼されたことがきっかけとなった。

ドラマの監修では、制作側から「リアリティーにこだわりたい、ディテールが欲しい」という要望があった。2023年2月から9月にかけて、対面での打ち合わせが9回行われ、1回あたり3~4時間。撮影同行も4回あり、メールのやりとりも100回以上あった。約100項目の質問を受け取ることもあった。

契約関係書類の書式は、ドラマの設定である2020年当時のものに合わせるよう求められ、当時の証明書類を集めた。行政の印鑑証明書などのデザインも年代によって微妙に異なるため、忠実に再現した。固定資産税の納税通知書に記載された土地は架空だが、土地の評価内容もよく検討した。

撮影が始まった後も、日程や脚本の変更があり、そのたびにチェックを行った。複雑な不動産取引の仕組みをどのように理解してもらうか、本人確認シーンをどのように可視化するかという視点で考えた。

特にこだわったシーンは、第1話で若手司法書士が免許証の裏をペンライトで照らして確認するシーン。これは地味な本人確認を映像で印象づけられると思った。また、若手司法書士がピエール瀧さん演じる地面師グループの中心メンバー・後藤義雄から高圧的に取引をせかされるシーンも印象的。司法書士は「取引の安全性を担保するのが私の仕事です。こっちもプライドを持ってやっているんです」と対抗する。これは実際の体験に基づくもので、新人の頃に似たような経験をしたことがあるという。

業務上の過失などで損害賠償請求をされた場合に備える「司法書士賠償責任保険」にも限度額がある。地面師を見抜けなかった場合、限度額を超えた分は自腹になることもある。高額の取引には恐怖を感じ、資格をかける気持ちで立ち会っている。

ドラマでは、司法書士が運転免許証の裏からライトを当てて確認したり、売り主側に干支や生年月日を聞いたりするシーンがある。実際の本人確認の方法は詳しいことは明かせないが、ドラマにあるように自分の家の写真を選ばせるなど、本人なら当然知っていることを聞いたり、持っている書類について聞いたりする。

免許証などの書類を見て目の前の人物の本人性を確かめるが、書類は偽造されることを前提として確認をしている。質問を重ねると化けの皮がはがれたり、相手から怪しい取引を断られたりする。

24年間の経験の中で、怪しいと思ったり、巻き込まれそうになったりしたことはある。共通していたのは、取引を焦っていた点だ。怪しい土地売買に関係した依頼があり、ブローカーに売り主の資料が欲しいと伝えると、かつての権利証にかわる登記識別情報が売り主からファクスで届いた。大切に保管されているはずなのに、表紙もなく汚れていて違和感があった。

また、登記したばかりの個人の売り主がすぐ売りたいという点も気になった。売り主とされる人物に電話をしてもらうと、取引は「悪い筋」からの借金を返済することが目的だという。売りたい土地は親からの贈与だというので、親に会いたいと求めると「重度の認知症で施設にいるので会えない」と。贈与が成立するのか不審に思い、さらに聞くと、依頼しないと連絡があった。

不動産取引における司法書士の存在は、不動産登記によって不動産取引の基本になる公簿を整えること。信頼できる基本的なインフラを構築しているとも言える。もし登記が信頼できないと、取引のたびに探偵を雇うなどして膨大なコストがかかる。

特に代金決済では、司法書士が本人性や書類などを確認してゴーサインを出すことで大金が動き、登記がなされる。司法書士の存在なく大量かつ円滑な取引はできない。日々数え切れないほどの不動産取引が行われているが、そのほとんどに司法書士が関わっている。不動産が動けば、建設や家具、家電、木材などの素材産業、運送業界なども動く。その裾野が広く、日本経済を縁の下で支えているという気持ちがある。