『火垂るの墓』: Netflixでの世界同時配信と日本の配信問題

『火垂るの墓』: Netflixでの世界同時配信と日本の配信問題

『火垂るの墓』世界190カ国以上でNetflix独占配信開始

2024年9月16日、高畑勲監督の作品『火垂るの墓』が世界190カ国以上でNetflixの独占配信が開始されました。1988年に『となりのトトロ』と同時上映された本作は、野坂昭如さんの同題小説が原作で、太平洋戦争末期を舞台に、空襲で母親と家を失った幼い兄妹が、親戚の叔母の家を出て、二人で必死に生きていこうとする姿を克明に描いた名作として知られています。

海外での反響

このニュースが伝えられると、『火垂るの墓』はX(旧:Twitter)でトレンド入りしました。戦争の悲惨さを訴えたこの作品が、海外の観客にどのように受け止められるのか、多くの人々が興味を示しました。国外のレビューサイトもにぎわい、海外での反響を伝えるネットニュースも出ています。

日本での配信問題

一方で、『火垂るの墓』が世界中で配信される一方、なぜ日本では配信されないのか、という議論が再燃しています。Netflixの配信対象となる地域に、なぜ本国の日本が含まれていないのか、という疑問が浮上しています。

製作委員会の影響

いくつかの理由が考えられますが、その一つとして挙げられるのが、製作委員会に日本テレビやディズニーといった企業が含まれていることです。製作委員会とは、複数の企業が出資を受け持つ方式で、1社あたりの負担を抑制するリスクヘッジと、各企業の強みを活かして作品の発信力を高めることが可能となります。作品の収益や権利も製作委員会で分け合います。これは日本での映像作品製作において非常にスタンダードなスキームです。

日本テレビとディズニーの配信サービス

日本テレビはHulu(フールー)、ディズニーはDisney+(ディズニープラス)という動画配信サービスをそれぞれ展開しています。Netflixにジブリ作品の国内配信権を渡してしまうと、自社サービスと競合してしまうことになります。特に日本テレビは、2023年10月6日付でスタジオジブリを子会社化しました。グローバルビジネスを加速させる一方で、国内の配信には慎重な姿勢を崩さないでしょう。

今後の可能性

では、今後もジブリ作品は国内の配信サービスで鑑賞することはできないのでしょうか。予測は難しいですが、いくつかの条件が重なれば可能性は出てくると思われます。

TV視聴率の影響

ジブリ作品は、日本テレビが「金曜ロードショー」の枠で独占放送しています。現在ではかつての30%を超えるような高視聴率は望めないものの、それでもコンスタントに2ケタの視聴率をマークしており、相変わらずキラーコンテンツとしての実力を発揮しています。国内のサブスク配信が始まった場合、TVの視聴率が低下する懸念があることでしょう。

配信作品の視聴率

最近のアニメ映画作品に絞って、「金曜ロードショー」の視聴率をチェックしてみましょう。

  • 2024年9月6日 『ベイマックス』(9.1%) 配信:Disney+ほか
  • 2024年8月16日 『映画 聲の形』(6.6%) 配信:Prime Videoほか
  • 2024年8月2日 『トイ・ストーリー2』(5.4%) 配信:Disney+ほか
  • 2024年7月26日 『トイ・ストーリー』(5.8%) 配信:Disney+ほか
  • 2024年7月19日 『リメンバー・ミー』(4.6%) 配信:Disney+ほか
  • 2024年4月5日 『すずめの戸締まり』(12.7%) 配信:Netflixほか

4月5日放送の『すずめの戸締まり』が12.7%を記録していますが、同作は4月6日からNetflixの独占配信がスタートしていたため、厳密にはこの時点ではまだ「未配信作品」でした。他の作品は視聴率がすべて1ケタで、確かに高い数字とは言えません。また、配信されていないことが、Blu-rayやDVDの売上に貢献しているという考え方もあります。

今後の展望

逆に、TVでの視聴率や円盤の売上が頭打ちになる、もしくは視聴率や売上にさほど影響しないという判断をするのであれば、HuluやDisney+での国内配信に舵を切る可能性もあるでしょう。個人的には、ジブリ美術館で公開されている短編映画や特典動画などもたくさん付加して、「ジブリ+」のような新規サービスを立ち上げて欲しいものです。あまり過度な期待はせず、気長に待ちたいと思います。