高校生ユーチューバー「ゆたぼん」の誤爆誹謗中傷訴訟:無関係者が25万円請求される事態
高校生ユーチューバー「ゆたぼん」が誤爆した誹謗中傷訴訟
6月末、栃木県に住む本間さん(仮名)の自宅に、裁判所からの分厚い郵便物が突然届いた。その封筒には「特別送達」と書かれており、開封すると、中には告訴状が入っていた。告訴状には、
「原告は『ゆたぼん』の通称で活動しているYouTuberであり、現在高校一年生である」
と書かれており、被告として本間さんの名前が記載されていた。
告訴状によると、被告は匿名でX(旧Twitter)アカウント<A>を利用して、ゆたぼんとその父親がトラックで日本一周をしている際、「クソガキ」「誰かにイタズラ嫌がらせをされたり」「事故してくれないかな」といった侮辱的な投稿をしたとして、25万8,760円の支払いを要求していた。
しかし、本間さんは<A>というアカウントを所有しておらず、そのような書き込みも全く身に覚えがなかった。なぜ自分が訴えられたのか、本間さんは理解できなかった。
「25万円請求されているし、最初に思ったのは『裁判所を名乗った詐欺』ではないかということでした。でも、押印までして手渡しで受け取る郵便物でしたから、本物だろうと考え直し、ともかく弁護士事務所に相談に行くことにしました」(本間さん)
誤認の経緯
問題の書き込みが行われたのは2022年10月。当時、ゆたぼんはデート経験のない男性に対して、
「えっ!俺でもデートした事あるのに、みんな学校行ってたのにデートもした事ないの!?ヤバ!」
とリプライを送った。これに対して、<A>というアカウントの人物が、
「このクソガキ日本一周中に、誰かにイタズラ嫌がらせをされたり、事故してくれないかな?(笑)」
と反応した。
ゆたぼんは弁護士に<A>の特定を依頼。弁護士が調査した結果、本間さんがそのアカウントの所有者として特定された。しかし、実際には<A>のアカウントは本間さんとは無関係だった。
問題の書き込みが行われた2022年10月時点で、本間さんが当該の電話番号を契約したのは2023年12月。つまり、弁護士が調査した時点で、<A>はすでに電話番号を解約しており、その番号は新たな契約者である本間さんになっていた。
弁護士の見解
ゆたぼんの代理人である福永活也弁護士は、次のように説明している。
「得られる情報でやれることをやった結果、今回の被告(本間さん)を発信者として訴訟を起こしたというだけの話です。それ以上は確認のしようがありません。同じ携帯電話の番号を様々な人が使い回しているケースは稀にあり、そうなると犯人を追えないことがあります。一般的にいつも追えないわけではないので」
結局、この訴訟は9月5日に取り下げられ、本間さんの「冤罪」は晴れた。しかし、この経験は本間さんにとって大きな負担となった。
「最初に相談に行った弁護士事務所では、『訴訟を引き受けるには40万円かかりますよ。請求額の25万円より高い』と、ある意味で親切心から『25万、払っちゃったほうが安いですよ』的な話をされました。でも、それではどう考えても不条理ですから、弁護士を頼まないで自分で訴訟に対応することにしました。
答弁書(相手方の主張に対する自分の言い分を記載した書面)を独学で書き、口頭弁論の日には仕事を休んで栃木から東京地裁に出廷しました。裁判の知識はありませんでしたから、休日を利用して弁護士の無料相談にも何回か行きました」
今後の対応
SNSによる誹謗中傷問題が増える中、今回のような誤認のケースも増えている。動揺してそのまま放置してしまう人もいるだろう。身に覚えのない訴訟を起こされた場合、どのように対応すべきか。「弁護士法人・響」の古藤由佳弁護士は次のようにアドバイスしている。
「訴状はいきなり送られてきます。『何月何日に裁判所で口頭弁論があるので、反論があれば答弁書を出してください』と書かれた書類が入っています。気が動転してしまって、どうしようと考えているうちに答弁書を提出せず、最初の口頭弁論の日にも出席しないということになると、本人欠席のまま裁判が行われます。
法律の世界では『反論が出ないということは、被告は原告の主張を認めている』と考えますので、原則として、原告の請求をそのまま認める判決が出ます。ですから、ともかく答弁書だけは出してください。形式が整っていなくても、『ほんとに身に覚えがないし、原告の主張は間違いです』と自分の主張を簡単に書くだけで大丈夫です」
答弁書の用紙は裁判所から送られてくる封書の中に入っており、答弁書さえ出せば、最初の口頭弁論には出席しなくても構わない。時間的に余裕ができるため、その間に市役所や弁護士会が開催する無料法律相談に行ったり、国が設立した法的トラブルの解決を支援する法テラスに相談に行くのもいいだろう。
類似事例
SNSで誹謗中傷を受け、民事訴訟を起こすも人違いとなるケースは少なくない。2020年に自死したプロレスラー木村花さんの母親が、投稿者に賠償を求めた裁判でも、人違いがあった。
遺族の感情を害する投稿のスクリーンショットを入手し、それをもとに投稿者を特定したが、そのスクリーンショット自体が偽造だった。花さんへの中傷を書き込んだほとんどの投稿者が、ツイートやアカウントを削除し逃亡したため、母親は投稿のスクリーンショットをもとに訴えを起こすしかなかった。
しかし、間違えられた側はかなりの精神的苦痛を受け、母親に対して880万円の損害賠償を求めて逆に提訴。訴えは棄却されたが、実に後味の悪い結果となった。
本間さんの対応
本間さんは、今回の誤認は「単純なミスのようですから、ゆたぼんさんを訴えるようなことは考えていません」と述べている。
SNSによる誹謗中傷が新たな被害者を生んでしまったわけだが、このようなケースは今後、増え続けるだろう。