山口紗弥加の30年を超えるキャリアと「私の死体を探してください。」への挑戦

山口紗弥加の30年を超えるキャリアと「私の死体を探してください。」への挑戦

山口紗弥加が語る「私の死体を探してください。」への思いと30年を超えるキャリア

現在放送中のテレビ東京ドラマ「私の死体を探してください。」に出演している山口紗弥加さん。14歳でデビューし、30年以上のキャリアを持つ山口さんは、まさに働く女性の大先輩。ドラマで演じるベストセラー作家の森林麻美の魅力や作品の見どころに加えて、CLASSY.世代の頃の苦労話、転機になった出来事まで、山口さんに話を伺いました。

原作の衝撃と役作り

「私の死体を探してください。」の原作は、好奇心に駆られて数時間で一気読みしました。ある事実に対し、それぞれの登場人物によって角度の違う解釈がなされ、いくつもの“主観に基づいた事実”に翻弄されていく中で、善悪の区別、生死、被害者と加害者の境界がどんどん曖昧になっていく怖さがありました。人間という生き物が恐ろしくなりました。私が今まで理解したつもりでいた何もかもが、視点一つで覆され、白が黒になってしまうような、倫理が崩壊するような感覚で、軽く混乱するほどの衝撃を受けました。

読後は、得体の知れない罪悪感に襲われ、過去の発言を少しずつ遡って紐解く自分がいました。「あのとき、あの人に言った一言がもしかしたら…」というような思いが頭をよぎり、言葉というものが急に怖くなりました。些細な一言が思わず後悔させるような強い力を、この作品から感じました。

森林麻美を演じる上で意識した点

麻美は自分の感情がよく分からないだけで、無感情な人ではありません。その難しさを感じました。彼女自身の中に沸き起こる“何か”に付ける名前が見つからないから、その正体を掴もうと、他人が書いた小説を読み漁り、周囲の人間を観察・分析して答え合わせするように、自分の中に存在しうる感情を必死に小説に落とし込む…その作業を永遠に繰り返しながら、感情というものを懸命に学習していると想像します。

演じる上では、感情が表出しないようにできるだけ表現を削ぎ落とし、無感情ではないという点では声のトーンや温度、間合いなどにも気を配りました。麻美はずっと心に重たいものを背負ってきた人なので、その重さを忘れずに、彼女の目的を見失わないことも常に意識していました。

撮影現場での印象深いエピソード

撮影現場では、伊藤淳史さんが演じる麻美の夫・正隆がクズ男で、演じる本人は人間力が高いから、その狭間で葛藤しているようにも見える正隆が、たまに愛らしく思える瞬間があったりして…耐えられなくてつい笑ってしまうことがあります(笑)。伊藤さんご自身も「子どもが見たときにどう思うんだろう?」と話されていました。伊藤さんだからこその人間味溢れる繊細なクズっぷりは、1番の見どころでもあります。

また、大好きなかたせ梨乃さんとご一緒できて、本当に夢のようでした。根掘り葉掘り、それはもう色々とお聞きしてしまって。「今朝は、何をお召し上がりになりましたか?」とか「スーパーでお買い物されますか?」とか。ご迷惑かと思いつつも、いちファンとしてプライベートに“触れたい”と思う欲望に勝てず、気づけば質問攻めにしてしまいました(笑)。10年ぶりにご一緒する伊藤さんをはじめ、嬉しい再会も多くあり、すべてが私にとっては喜びで、「楽しい」の一言に尽きる現場でした。

20代の苦労と転機

14歳でデビューし、長くキャリアを重ねてきましたが、20~30代を振り返って、大変だったことや苦労したことは、どんなことでしょうか?

デビュー当初は、“アイドル(女優)”的なカテゴリーに分類されていたと思います。私自身は役者に憧れを抱いていたのですが、仕事を重ねるほど、バラエティの方向に進んでいった時期がありました。17歳から20代前半くらいまでかな。その時期がいちばんしんどかったです。“やりたいこと”と“やれること”の間で葛藤し、ディレクターの要求に傷つきました。何もできず、ただ笑ってるだけのつまらない自分にも怒りを覚えたし、嘘ばかりの大人たちにも失望しました。誰かに助けてほしいのに、誰にも相談できずに体調を崩してしまいました。仕事を引き受けておきながら、生きている心地がしなかった。「これは本来の私じゃない」と感じ、「私がやりたいのはこれじゃない」という気持ちが強くなり、この仕事を辞める決心をしました。

ところが、最後の仕事として出演した舞台でお芝居の面白さに気づいてしまいました。やり直しがきかない一発本番の舞台上のやりとりや、お客さんを巻き込んで作り上げていく空間の熱量に衝撃を受け、「辞めたくない」と思いました。不思議なことに、この舞台の稽古が始まる直前、デビュー前に出会っていた現事務所の社長と10年ぶりに再会しました。高熱を出して診察を待っていた自宅近くの“町の病院”の待合室での出来事でした。その社長が公演を見に来てくれて、「辞めるな」と引き止めてくれました。奇跡とも思える偶然の再会があり、事務所を移籍して役者を続けられることになりました。

30代の内面の成長

20代の苦労を経て、30代はどんなふうに過ごしていましたか?

ただひたすらもがいていた時間を経て、役者としての武器、個性を模索するようになりました。しかし、作られた個性はもはや個性じゃないし、個性的を売りにする、とってつけたような芝居なんて、私は見たくない。個性ってきっと、その人から自然と滲み出るものだと思います。そう考えるようになって、無理に個性を追い求めることと、他者の評価を気にすることをやめました。人の目ばかり気にして疲れ果て、何もできずにうずくまっている自分が嫌になったからです。あえて同業者と関わらないようにしていた時期もありました。どうしてもそこで比較してしまうからです。30代は内面を育てる、根っこを太くする時期だと捉えて、ひとり旅に出てみたり、全く仕事と関わりのない人と時間を共にしてみたり。知識を蓄え、経験値を高めようと考え方を変えた時期でもありました。

現在の心境と未来への展望

今回の「私の死体を探してください。」は、私の中で何かが変わったような…新しい自分に触れたような感覚を得られた役柄でした。新しい、何か——。年齢を重ねてもなお、そういうものに出会えることが嬉しくて、遠回りだったと思えるような時間ですらも必要な道のりだったんだな、と今は理解しています。

山口紗弥加さんは、1980年生まれの福岡県出身。14歳でデビュー後、バラエティ番組やドラマ、映画、舞台と多岐に渡って活躍しています。近年の主な出演作には、ドラマ「ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と」(TBS系)、「柚木さんちの四兄弟。」(NHK)、映画「劇場版ラジエーションハウス」、「わたしの幸せな結婚」などがあります。現在放送中のテレビ東京ドラマ「私の死体を探してください。」(毎週火曜24:30~)では、自身のブログで自殺をほのめかし、消息不明になるミステリー作家・森林麻美を演じています。

ドラマ「私の死体を探してください。」は、ベストセラー作家・森林麻美がブログで自死をほのめかし、「私の死体を探してください。」という文章を残して消息を絶つ。担当編集者の池上沙織は麻美を探すが、その後も麻美のブログの更新は続き、さまざまな秘密が次々に暴露されていく。人間の醜い欲望が溢れだすノンストップスリラーです。