15分都市:新たな地図ツールが理想的な生活圏を可視化

15分都市:新たな地図ツールが理想的な生活圏を可視化

15分都市:理想的な生活圏の新しい地図ツールが開発

理想的な生活圏の決め手は、徒歩または自転車で15分以内に移動できる範囲で生活に不可欠なサービスが受けられることである。この「15分都市」の概念を世界規模で特定できる新しい地図ツールが開発され、公開された。

住まい周辺のサービスが生活の質を左右

住まい周辺のサービスは、生活の質(QOL)のカギを握っている。病院、学校、ジム、職場、公園、スーパーマーケットなどが近くにあることを誰もが望んでおり、それが徒歩や自転車で行かれる距離ならなおよい。イタリア・ローマにあるソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL-ローマ)が、世界の各都市が「15分都市」の理想にどれだけ近いかを定量化した研究結果を、英科学誌ネイチャー系列のオンライン学術誌Nature Citiesに発表した。この研究では、自分の住む地域が世界中の都市と比較してどの程度理想的かがわかる地図ツールも公開されている。このツールはオープンソースのデータを用いて構築されており、世界1万カ所の都市の状況を調べることができる。

パリ:15分都市の先駆者

「15分都市」の概念は1960年代に生まれたが、2016年以降に政策面で注目されるようになったのは、フランス系コロンビア人の科学者カルロス・モレノの功績によるものだ。フランスの首都パリは実際に「15分都市」を自負しており、アンヌ・イダルゴ市長はこれを基本理念としてさまざまな都市政策を導入している。2014年に就任してから自転車専用道路やセーヌ川沿いの車道の撤去など推進してきたイダルゴは、再選を狙った2020年の市長選で「15分都市」を公約に掲げた。

世界的な気運の高まりは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックに伴うロックダウン(都市封鎖)がきっかけとなった。この差が今回の研究でパリが外れ値をたたき出した理由の1つだろうと、論文の筆頭著者を務めたソニーCSL-ローマのマッテオ・ブルーノは説明している。パリは世界有数の大都市だが、それでも比較的楽に短時間で移動でき、「都市の大部分が15分以内の基準に収まっている」のだ。

欧州の都市は米国の都市より優れている

ソニーCSL-ローマの「15分都市マップ」は、任意の地域について、生活に不可欠なサービスにアクセスするのに何分かかるかを示している。「15分圏内」は青色で、15分以上かかる地域は赤色で表示される。人口密度は重要な要素であり、大勢が密集して住んでいる地域は通常、より短い距離でより多くの人が利用しやすいサービスがよりたくさんある。イタリアのミラノやスペインのバルセロナはこの点で非常にコンパクトにまとまった都市で、今回の研究でも高い評価を得た。

欧州の都市の多くが15分圏内に収まっているのは、自動車の普及以前に都市が建設されたため、特に中心部ではあらゆるものが手の届く範囲になければならなかったからだと研究チームは指摘している。

米国ではアトランタとロサンゼルスが遅れをとっている

この研究では、米主要都市の中に際立って「15分都市」の理想からほど遠い都市が2つあることが明らかになった。アトランタとロサンゼルスである。一方、ニューヨーク、サンフランシスコ、ミルウォーキーなどでは多くの地域が15分圏内の基準に十分収まっている。ニューヨークでもマンハッタン地区は特に優秀で、米国有数の人口密集地として住民は多くのサービスへのアクセスの良さを享受している。

15分都市を唯一の指針とすべきではない

とはいえ、「15分都市」を理想の生活圏を決める唯一の指針にするべきではない点には留意が必要だ。欧州の都市の多くはたしかに便利かもしれないが、15分圏内の基準には考慮されていない要素がある。たとえば、多くの人々がアパート暮らしで自宅に庭がない事実は、QOLを下げる要因になりかねない。

都市計画の担当者や移住を考えている人は、優れた都市を構成するその他の側面についても検討しなくてはならない。これには平等性、交通の便、渋滞の少なさ、充実した医療・教育などが含まれるだろう。

結論

「15分都市」の概念は、生活の質を向上させるための重要な指針の一つである。しかし、都市の評価は多面的に行うべきであり、15分圏内の基準だけでなく、他の重要な要素も考慮に入れることが大切だ。この新しい地図ツールは、都市計画の担当者や住民にとって、より良い生活環境を実現するための有力なツールとなることだろう。