「ちばにう」:北総鉄道への挑戦とその終焉

「ちばにう」:北総鉄道への挑戦とその終焉

幹線鉄道のライバルとして誕生?「生活バス・ちばにう」力尽きる

2024年9月末をもって全線廃止となる「生活バス・ちばにう」(以下、「ちばにう」)は、幹線鉄道に並行して、抗うように走ってきた路線バスだ。このバスは、北千葉道路(国道464号バイパス)をまっすぐ進み、北総鉄道の鉄道路線とほぼ同じ経路を走っていた。途中で立ち寄るバス停も、西白井駅、白井駅、小室駅と、鉄道と全く同じだった。

バスと鉄道の並行路線

通常、バスと鉄道が並行する場合、バスは鉄道の速さ、快適さ、多量輸送にかなわないため、経由地や停留所の数などで差別化を図ることが多い。しかし、「ちばにう」は北総鉄道とルートも停留場も同じという、鉄道に“ガチンコ勝負”を挑む路線だった。

「ちばにう」の開業背景

「ちばにう」の開業は2014年6月。その前から、北総鉄道の沿線住民は「北総高額鉄道」とも呼ばれる高額運賃に悩まされていた。2014年当時、北総鉄道の初乗り運賃は290円(2010年に10円値下げ)、千葉ニュータウン中央駅から新鎌ヶ谷駅までの10km少々の乗車で570円も取られていた。

北総鉄道の高額運賃問題

この区間は、当初鉄建公団(現在のJRTT)の「P線」として建設され、建設費用1298億円と利子の返済が必要だった。さらに、34万人が住むはずだった「千葉ニュータウン」の人口が10万人ほどにとどまったため、乗客の利用は想定をはるかに下回り、年間30億円ほどの赤字が続いた。北総鉄道は、会社としての経営が厳しく、運賃値下げは困難だった。

地元住民の反発

北総鉄道は京成・都営浅草線などに乗り入れるため、都心への通勤・通学定期はさらに高額になる。地元自治体も北総鉄道に総額300億円以上を支援せざるを得ない状況にあり、「不便で高いのに、補助金だけ莫大に食う」という反発が根強く、鉄道運賃の値下げを求める住民訴訟(2015年に敗訴確定)や、強硬に補助金拠出を決めた市長が失職するなど、議論を進めるうえで大きな禍根を残した。

「ちばにう」の誕生

このような状況のなか、少しでも安く通勤したい人々は「並行する北千葉道路にバスを走らせた方が安いのでは?」という考えを持つようになる。せめて、新鎌ヶ谷駅まで出て、運賃水準が格安な新京成・東武野田線に乗り換えれば……という発想で、「ちばにう」の原型となる「鉄道対抗・格安路線バス」構想が持ち上がった。

運行会社の選定

「ちばにう」の運行を担う「鎌ヶ谷観光バス」は、観光バス・貸切バスを主に運行する会社だ。鎌ヶ谷市からコミュニティバスの運行を受託していたため、路線バス会社としてのノウハウもわずかにあった。しかし、運行にあたってはさまざまな紆余曲折があった。

まず、この地をメインのエリアとする「ちばレインボーバス」は、北総鉄道と同じ京成グループであり、北総鉄道の各駅に乗客を送り込まないバス路線を引き受ける理由がない。また、沿線自治体も北総鉄道に税金を投入しているため、鉄道の価値を落とすようなコミュニティバス路線を開設できない。こうして各地のバス会社に打診しては断られ、また打診して断られ……という状況が続き、ようやく鎌ヶ谷観光バスが引き受けに手を挙げた。

運行開始と利用者増

ようやく運行を開始した「ちばにう」は、平日は1日46便、祝日は19便運行。1日の利用者400人を採算ラインに設定し、千葉ニュータウン駅から新鎌ヶ谷駅までの運賃を北総鉄道の同区間(570円)のほぼ半額(300円)に抑えた。開業当初は1日200人程度であった利用者は、1年で400人を越える日も出てきた。さらに2017年には「北環状線ルート」「牧の原循環ルート」の運行を開始。安定して採算が取れるほど順調ではないものの、「ちばにう」はなんとか走り続けてきた。

鉄道の大幅値下げと「ちばにう」の衰退

2022年10月、北総鉄道が「初乗り運賃改定・普通運賃最大100円値下げ」「通学定期最大1万円以上値下げ」などの値下げ施策を実施した。これにより、千葉ニュータウン中央駅から鎌ヶ谷駅間は480円、「ちばにう」は先に値上げを実施していたため330円。差額が150円に縮まったうえに、都心に通う学生は「ちばにう」に乗らず、定期代が大幅に下がった北総鉄道を乗り通すようになった。

この値下げは、北総鉄道の業績改善で、累積債務の解消にめどが立ったことから実施されたものだ。本来であれば喜ばしいことだが、近距離の値下げは「地元利用者の利便性向上」が目的でもあり、ほぼ同時に行なわれた増便が乗客を奪った。さらに「ちばレインボーバス」が対抗する路線を開設したこともあり、ますます「ちばにう」の存在意義がなくなってしまった。

鎌ヶ谷観光バスの経営危機

また、鎌ヶ谷観光バスの路線バス事業は、厳しい経営を強いられていた。2020年から続いたコロナ禍で、事業の柱である観光バスの収入が激減。さらに車両の老朽化、バス運転手不足が重なり、会社はにわかに存亡の危機を迎えた。同社や後援会(ちばにう友の会)はクラウドファンディングを実施したものの、300万円の目標に対して65万9650円と、危機を脱出するには至らなかった。

事業撤退の意思表示

「ちばにう」は早くから事業撤退の意思を示しており、完全撤退に先立って2024年6月には「北環状線ルートのみ1日1往復で存続、9月末に廃止」というダイヤ改正を実施。1往復となったあとも「利用者は平日13~20人、週末10人前後」と、かなり利用されている。にも関わらず、「生活バスちばにう」は、まもなくこの地から去る。

最後の見送り

スカイブルーと白を基調としたバス停の丸看板や、手をつなぐ家族の絵がプリントされた「ちばにう」車両を見ることができるのも、あとわずか。住民のために生まれ、役割を果たして消えゆく「ちばにう」を惜しみつつ、ひっそりと見送りたい。

結論

「ちばにう」は、北総鉄道の高額運賃問題に立ち向かうために誕生し、住民の利便性向上に貢献してきた。しかし、北総鉄道の運賃値下げや経営難により、その存在意義が失われ、ついに廃止の運命をたどることとなった。住民の声に応えて生まれた「ちばにう」の歴史は、公共交通の在り方や地域の課題を改めて考えさせるものである。