クプラのラバル:フォルクスワーゲングループ初のMEBエントリープラットフォーム採用EV
セアトのサブブランドクプラから登場するMEBエントリープラットフォーム採用のEV「ラバル」
2023年3月に公開されたフォルクスワーゲンの「ID.2 All」は、ドイツ車として初めて2万5000ユーロを切る価格で注目を集めました。しかし、その発表は当初予定されていた2025年から2026年半ばにずれ込む可能性が高まっています。一方で、同じプラットフォームを採用するコンパクトEVが、フォルクスワーゲングループ傘下のセアト/クプラから2025年中に先行して発表される予定です。
初のMEBエントリープラットフォーム採用車
意外にも、初のMEBエントリープラットフォームを採用する車種は、フォルクスワーゲンブランドのものではなく、グループ傘下のスペインに本拠を置くセアトのサブブランドであるクプラ(CUPRA)から登場します。この車の名前は「ラバル(Raval)」です。
クプラブランドは、セアトのモータースポーツ部門が2018年に独立して誕生しました。セアトと同様に日本では販売されていませんが、フォルクスワーゲン車やセアト車と共用するコンポーネンツを活用しつつ、独自性の高い個性的な車種展開が好評を博しています。現在では、セアトを凌ぐほどの人気を得ています。クプラが満を持して投入するBセグメントのEVが、このラバルです。
ラバルの特徴
ラバルは、MEBエントリープラットフォームを採用し、最高出力166kW(226ps)のモーターと38kWhまたは56kWhのバッテリーパックを搭載しています。これらの主要コンポーネンツは、フォルクスワーゲンのID.2と全く同じです。しかし、内外装やシャシーのエンジニアリングはクプラ独自のもので、独自性が強調されています。
2023年9月中旬には、ラバルの公道でのテスト風景がネット上に流出しましたが、ID.2との関連性はほとんど見られませんでした。56kWhバッテリー搭載車の航続距離は約450km(WLTP)で、0-100km/h加速は6.9秒と、ID.2と同等の性能を誇ります。
生産と工場
ラバルの生産は、新たにバッテリー工場を併設したセアトのマルトレル工場で行われます。この新装された工場は、フォルクスワーゲングループの欧州圏工場では3番目の規模を誇る大規模なもので、ラバルを始め、MEBエントリープラットフォームを採用するセアトブランドのコンパクトEV、そして2026年にはフォルクスワーゲンのID.2ファミリーの生産を開始する予定です。この工場は、フォルクスワーゲングループにおける「メイド in スペイン」の新拠点として位置付けられています。地の利を生かし、まずはラバルの生産が先行する見込みです。
フォルクスワーゲンの戦略
一方、本家のフォルクスワーゲンは、社内外との調整に労力を割かざるを得ない厳しい状況にあります。しかし、事業ポートフォリオは粛々と進んでいます。関連会社のコンパクトEVから量産が始まり、2026年前半からはID.2、ID.2派生コンパクトSUV、そしてGTIの3車種を順次生産開始する予定です。ポロとゴルフ(およびID.3)の間に新生BセグメントEVラインナップを一気に揃えることで、起死回生を狙います。これらの車種はすべてスペインで生産される予定です。
さらに2027年には、AセグメントのエントリーEVも加わる予定です。この車種は、以前、コストダウンを目的にルノーとの協業も検討されましたが、合意に至らなかったという報道がありました。現在は、MEBエントリープラットフォームを使ってフォルクスワーゲンが独自に開発を進めています。
EV市場の展望
フォルクスワーゲンのEVシフトは、比較的上位車種から始まりましたが、比較的安価なID.2ファミリー=MEBエントリープラットフォーム採用車の増殖によって、EVの大衆化が加速する可能性があります。世界的にはEV販売が低迷していますが、ルノーやステランティス(プジョー、シトロエン)は2025年までに2万5000ユーロ以下のEVを発売する予定です。フォルクスワーゲンはやや出遅れた感がありますが、グループ全体で見れば巻き返しは十分に可能ではないでしょうか。
結論
クプラの「ラバル」は、MEBエントリープラットフォームを採用した初の車種として、2025年に登場します。独自性の高いデザインと高性能を兼ね備えたこの車は、フォルクスワーゲングループのEV戦略における重要な一歩となるでしょう。一方、フォルクスワーゲンは2026年から順次、ID.2ファミリーを発表し、BセグメントEV市場での存在感を高めることを目指しています。これらの新車種の登場が、EV市場の活性化に寄与することに期待が寄せられています。