シュツットガルト・バレエ団のプリンシパル、エリサ・バデネスが『オネーギン』と『椿姫』のヒロインを語る
ドイツの名門、シュツットガルト・バレエ団が6年ぶりにフルカンパニーでの日本公演を実施する。上演されるのは、20世紀を代表する2つのドラマティック・バレエ作品。1つは、ジョン・クランコがプーシキンの韻文小説を原作として創作した『オネーギン』(1965年初演、1967年改訂版初演)。もう1つは、50年にわたりハンブルク・バレエ団を率いたジョン・ノイマイヤーが振付けた『椿姫』(1978年初演)だ。
この夏開催された世界バレエフェスティバルの最中、これらの作品のヒロインを演じるプリンシパル、エリサ・バデネスに、作品への思いやヒロインへの取り組みについてインタビューが行われた。
『椿姫』は、アレクサンドル・デュマ・フィスの小説を原作とし、ショパンの名曲を用いて高級娼婦マルグリットと青年アルマンの悲恋を描く3幕のバレエ作品。シュツットガルト・バレエ団のダンサーたちにとって、この作品は特別なものだ。ノイマイヤーが40年以上前にシュツットガルト・バレエ団のために創った作品で、カンパニーを象徴する演目の1つ。人間味ある物語を伝えることを得意とするシュツットガルト・バレエ団のスピリットが随所に宿っている。
バデネスは、世界バレエフェスティバルで『椿姫』第1幕のパ・ド・ドゥを踊った。この7分半のパ・ド・ドゥは、さまざまな表現が凝縮されており、その場面の前後に起こることも伝えなければならないため、非常に難しいという。一方、全幕を通して踊るときは、準備の仕方が全く異なる。ゼロから始めることができ、舞台上でキャラクターの旅路を進んでいくことができる。
バデネスは、ヒロインのマルグリットを「強く、決意をもった、才能あふれる女性」と捉えている。彼女はさまざまな努力を重ね、皆に愛されたいと願っているが、人生の中で難しい決断をしなければならない。パートナーのフリーデマン・フォーゲルが演じるアルマンは、フレッシュで若々しく、情熱にあふれている。従来の踊り方にとらわれることなく、自由に踊っている。
初めてこの作品を観る人には、事前の知識がなくても楽しむことができるという。物語はわかりやすく入り込みやすく、登場人物たちと共感し、恋におちて、泣いて、その瞬間を楽しむことができる。
もう1つの演目、『オネーギン』はクランコの代表作で、日本でも1973年以来幾度も上演され、観客の心を捉えてきた。バデネス自身も6年前の日本公演でヒロインのタチヤーナを踊っている。6年間で、タチヤーナへの向き合い方や踊り方に変化があったという。昨年、クランコのことを描いた映画(ヨアヒム・ラング監督『クランコ』)で、クランコのミューズだったマリシア・ハイデを演じたことで、『オネーギン』がどのようにして始まったのか、その背後にあるジョンのアイデアをより深く理解することができた。
撮影現場では、ハイデから直接アドバイスを受けた。「エリサ、あなたは自分自身のままでいなさい」という言葉が印象的だった。完成した映画を見て、ハイデが「とても良かった」と言ってくれたことで、やり遂げることができたと感じている。
世界バレエフェスティバルのBプロでは、ケネス・マクミラン振付の『うたかたの恋(マイヤーリング)』のパ・ド・ドゥを踊った。クランコとマクミランは同世代で、パートナリングの仕方やその複雑さにおいて似ている。異なる点は、クランコにはマリシアというミューズがいたこと。彼女の独特のオーラと生々しさが、クランコのバレエに投影されていると感じる。
バデネスは、優れた振付家が紡いだステップやストーリーに自由に取り組むことを大切にしている。特定のタイプを追わなければいけないということは全くない。バレエの美しさはそこにあると信じている。
最後に、日本のファンへのメッセージ。「いつも日本に帰ってくることができ、嬉しく思います。皆さんに笑っていただいたり、泣いていただいたり、様々な感情を抱いていただけるよう、精一杯努めます!」