小川哲の新作『スメラミシング』: 宗教、陰謀論、小説が交錯する6つの物語
『地図と拳』で直木三十五賞と山田風太郎賞をW受賞した小川哲が、最新作『スメラミシング』を10月10日に刊行する。本書には、宗教をテーマにした6つの短編が収録されている。SNSで活動する陰謀論者のオフ会を描いたサイコサスペンス「スメラミシング」、七十人訳聖書に隠された秘密を明かす歴史空想小説「七十人の翻訳者たち」、神が禁忌とされた惑星の真実を突き止める「啓蒙の光が、すべての幻を祓う日まで」など、重厚な内容ながらエンターテインメント性の高い作品が揃っている。
小川は、宗教的なものを広い意味で捉え、何かを盲目的に信じたり、無批判に受け入れたりすることを描いている。彼は、宗教的な要素が日常生活のさまざまな場面に存在すると指摘する。例えば、「推し活」やスポーツの応援、恋愛なども、宗教的な側面を持つと述べている。これらの活動は、人間が何かを強く信じるときに使われる脳の部位と近い部分を刺激すると考えている。
小川は、小説家が人間の宗教的な部分に乗っかって仕事をしていると語る。物語の原点には宗教があり、小説はフィクションとして都合よく配置された情報を読み解くことで快楽を感じるという側面がある。また、小説を読むことで、物語がどのように使われるかを警戒し、虚偽の情報を暴く能力を養うことができるという。
『スメラミシング』の表題作では、SNSで活動する陰謀論者たちのオフ会が描かれている。小川は、陰謀論が小説的想像力に基づいていると指摘し、コロナ禍でその傾向が顕在化したと述べている。彼は、陰謀論を信じる人々が世間と摩擦を持ち、違和感を感じていることが多いと分析し、自己反省の重要性を強調している。読者を一つの陰謀論にはめることで、自己の信念を疑うことを促すトリックが用いられている。
本書は、宗教的な要素と現代社会の問題を巧みに織り交ぜ、読者に深い思考を促す作品となっている。