上畠菜緒の新作『イグアナの花園』:婚活と人間関係の探求

上畠菜緒の新作『イグアナの花園』:婚活と人間関係の探求

上畠菜緒の新作『イグアナの花園』

上畠菜緒さんが『しゃもぬまの島』で小説すばる新人賞を受賞し、デビューしてから初めての長編小説『イグアナの花園』が発表されました。この作品は、動物との心の交流が得意だが人間社会には馴染めない主人公・美苑そのが、婚活を通じて成長していく異色のストーリーです。

『イグアナの花園』のストーリー

主人公の美苑そのは、幼い頃から動物の声が聞こえる特殊な能力を持っています。彼女はイグアナのソノと心を通わせ、果ては婚活の相談をする仲になります。この「イグアナ」と「婚活」という意外な組み合わせが、物語のユニークさを引き立てています。

作品の着想

上畠さんは、この作品の着想について語ります。「最初に与えられたお題は『婚活』でした。『結婚とは何か』『家族とは何か』を考えるうちに、物語が長編へと膨らんでいきました。完成までに二年を要しました」と語ります。彼女は、小学校の社会の教科書に「家族は社会の最小単位」と書かれていたことを思い出し、「独り身は社会に属していない」というショックを受けた経験を元に、物語を構築しました。

人間社会との関わり

美苑は、人間社会に属することの重要性を痛感します。彼女は、人間社会と関わらないと生きていけないことを理解し、婚活を通じて人間社会に再び属することを目指します。上畠さんは、「人間は社会と関わらないと生きていけない。それは経済的な面だけでなく、精神的な面でも重要です」と語ります。

コミュニケーションの難しさ

美苑は、人間とのコミュニケーションが苦手です。彼女は「人間の言葉が苦手」と言い、母親は「人間の言葉は簡単で、軽く、そして鋭すぎる」と応じます。上畠さんは、言語が心の近くにあるが、心そのものではないと指摘します。「言語は思考や感情を最も詳細に表現できるツールですが、扱いが難しい。誤解やウソが生まれ、心を傷つけることもあります」と語ります。一方、動物との対話は心と同じ場所に言語があるイメージで、誤解やウソが生まれないため、美苑は動物との関係に傾倒します。

動物への愛

上畠さんは、動物に惹かれる理由について語ります。「動物は美しいから好きです。合理的な体の構造や、言葉がわからなくても信頼関係を築ける点などが魅力です。特に、アニメ映画『ズートピア』が好きで、動物のルックスが美しいと感じます」と語ります。彼女は、ペットショップで働いていた経験があり、現在はインコと暮らしています。彼女は、ペットを飼うことについて、「食べることと同じだと考えています。人間が強者だから、命を預かっている自覚を持ち、幸せにすることを心がけています」と語ります。

さみしさの探求

美苑は、小学校の同級生から「さみしいやつ」と言われ、父から最後にかけられた言葉も「さみしいね」でした。この物語は、美苑が「さみしい」とは何かを探していく旅でもあります。上畠さんは、「さみしい」とは、一緒にいたい人がそばにいないことを指し、体や心で相手とつながりたい気持ちを表現すると語ります。

婚活の条件

大学院生になった美苑は、母から「半年以内に結婚しなさい」と命じられます。結婚の条件は、「相手は人間であること」と「共に暮らすこと」です。上畠さんは、「結婚するうえでの最大の難関は、自分以外の人間と一緒に暮らすこと。生活リズムを合わせ、家事を分担し、価値観のすり合わせや許し合うことが必要です」と語ります。美苑に婚活を通じて人間社会に属することを試みさせることで、短期間で成長させることを意図しました。

結婚とは何か

上畠さんは、結婚についての考えを語ります。「結婚は子どもを作りたい人にはメリットのある制度です。結婚せずに子どもを作ることも可能ですが、結婚していたほうがサポートを受けやすい。一方、子どもを望まなくても結婚したい人もいます。心のつながりや、相手との関係性を名のある確固たるものにしたいという理由もある」と語ります。

作家としての思い

上畠さんは、この作品を通じて、「人とのつながり方や家族の在り方は、それぞれであっていい」という思いを込めて書いたと語ります。「美苑が婚活の果てに何を掴むのか、楽しんでいただけたら嬉しいです」と語ります。

『イグアナの花園』は、婚活を描きながらも、いわゆる恋愛シーンは少なく、「結婚っていいよね」と勧めるものでもありません。現代的な視点で、人とのつながり方や家族の在り方を問いかける作品となっています。