田舎道で若い2人のじゃれ合いを撮影中に…突然割って入る顔が「な~に撮ってるんだ!?」決定的瞬間を捉えた1枚
とある田舎道で、若い2人がじゃれ合っている様子を撮ろうとしたとき、突然、顔が割って入ってきた。2人の後見人か、この村の長か。その顔はどんどん近づいてきて、表情がボケるほど迫力があった。彼は「な~に撮ってるんだ!」と言いたそうだった。
猫写真家・沖昌之さんは、猫の決定的瞬間を逃さない。蝶々を捕り損ねた猫、パンチが顔面にヒットした猫、塀から落ちて両手でぶら下がる猫……。表情と仕草は躍動的でおかしく、彼らの“声”も聞こえてきそうだ。その一瞬をどうやってカメラに収めるのか。撮影術を尋ねると、「ほぼ忍耐です」と苦笑いが返ってきた。
「猫に脅威を感じさせないために、何度も足を運び、何をするでもない空気のような存在になりきります。猫はこちらの心を見透かしますから、焦ってカメラを構えてはダメ。ある地域猫をお世話する方に、『食事を終えると草むらに隠れる猫が、あなたのカメラの前ではポーズをとる。撮影に付き合っているようね』と言われたのは嬉しかったですね」
猫の興味を知るには、その視線の先を追う。虫か、仲間の猫か、覗き込みたくなる筒か、噛みたくなるネットか。その後の展開が想像できる。細かな癖にも注目する。寝起きに、欠伸が先か、毛繕いが先か、屈伸は両足か片足ごとか。観察の積み重ねで、その猫の個性が見え、“スクープ写真”に繋がる。
「僕が撮影する地域猫にはコミュニティがあるんです。上下関係もあるし、家族でも仲が悪い猫もいれば、他人のオス猫が子守をしていることも。久しぶりに会うと、愛想がよくなったり、一方で、興味のなかったはずの枝で荒ぶりながら遊んだり、けっこう変化があるんです。人と一緒ですよね。季節や天気にも気分は左右される。だから二度と同じ写真は撮れません」
自らを「怠け者」「出不精」と評する沖さんだが、「猫を撮るのは楽しくて、これなら一生できる」。いまも猫島に行くと夜明けから日没まで猫を撮る日々だ。猫を追って10年。その節目に、写真展「ネコなんです。」が開催される。沖さんの代名詞となった写真集『必死すぎるネコ』シリーズなどから写真を選び直した、いわば傑作選だ。
「この10年間を振り返ると、僕の写真はほぼ変わっていないんです。猫の習性も、撮り方も限りがあるのに続けていけるのか、我ながら心配ですが(笑)、好きなことで誰かを喜ばすことができるのは嬉しいですね」
おきまさゆき/1978年、神戸生まれ。初恋の猫「ぶさにゃん先輩。」との出会いをきっかけに、2015年にアパレルのカメラマン兼販売員から猫写真家として独立。『必死すぎるネコ』『必死すぎるネコ~前後不覚篇~』『必死すぎるネコ~一心不乱篇~』はシリーズで累計8万部を超える。