青木真也が語る「減量の真実」 過度な減量はパフォーマンスを低下させる【青木が斬る】
2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(41)。複数の書籍も出版し、文筆家としても活躍している。また、自ら「note」でも発信を続け、青木の“考え方”へのファンも多い。ENCOUNTでは青木が格闘技の枠に捉われず、さまざまなトピックスについて持論を語る連載「青木が斬る」を5月に始動した。連載5回目のテーマは「減量」。青木はキャリアで1度だけ減量をして試合を行ったことがあるが、それ以来過度な減量をしていない。なぜその考えにたどり着いたのか。
現代では、格闘技界だけでなくさまざまな競技で大幅な減量が行われている。一方で腎臓医によれば過度な水抜きや減量は臓器障害などのリスクがあるという。このテーマについて語る上で青木は日本MMAにおける減量の歴史について説明した。
「水抜き、ハイパーリカバリーが日本においてはやり出したのは歴史的に言うと2006年~08年。アメリカン・トップチーム(米国のメガジム)のJ.Z.カルバンがはやらせたんだよね。過度な水抜きをして、一気に戻す。川尻(達也)がまさにそれだった。例えば、70キロの人はフェザー級(66キロ)だったけど、メジャー団体でも下の階級ができることによって、どんどん減量競争が始まった。『何キロ戻った』が競争になった」
青木は「減量しない格闘家」のイメージがあるが、一度だけフェザー級に落として試合をしたことがある。2013年のコディ・スティーブンス(米国)戦だ。
「僕は落とせると思ってフェザー級に1度下げました。なぜ下げたのかというと階級を下げたら相手が小さくなって力が弱くなるだろうと思ったから。僕はそのまま下げられれば無双できるだろうと思って下げたんです」
しかし、実際は全く違った。「目に見えてこれまでと差が出ました。『あれ? おかしい』みたいな。反応、力の出なさ。ちょっとフワフワしている感覚でした」と振り返る。一番の学びは「僕も弱くなる」。ベストパフォーマンスを出せなくなった。
フェザー級で戦ったのはその1回だけ。
「一番大きかったのは適正体重でないから力が出ないことと、好きでやってる格闘技が楽しくない。日々が、生活が。何のために格闘技をやってるんだろう?って思った。俺は楽しくて格闘技やってるのに、その練習の前に何キロも走って、練習終わってまた走って。体重を削ることに労力を割くのが無駄だなと思ってやめました」
それからは常に73~75キロの間を維持するような生活をしている。試合が決まれば72キロほどに落とし、最後に少し調整をしてライト級の契約体重に合わせている。他の選手のような大幅なリカバリーがないため、当日は相手との間に体格差が生まれるもしばしば。
「自分がすっごい脱水して体重を戻すことを頑張ってたころ、6キロぐらい戻したんですよ。でも……全然(体が)動かなかったから。ぶっちゃけ相手がどうこうよりもベスト体重70キロで計量して、当日3キロ前後戻ってたほうがコンディションは良かった。あくまで自分の体調がいいことが大事だと思いますね」
現代はギリギリまで練習をして体重を作り、直前に水抜きをする方法が主流だ。そんな風潮を「みんな無理やり落としてやるよりも適正体重でやった方がいいじゃんって俺は思うんですよ。だってみんな好きでやってるんでしょ? だからいまの状況は滑稽だよ。ドーピングも減量もそう。勝ち負けに握られちゃって、妄信的にやってる」と斬る。
日本で一番見られている格闘技イベント「RIZIN」ではライト級からフェザー級に、フェザー級からバンタム級に階級変更する選手も出てきている。
「ベストコンディションなの? それで勝ててるの?って。(今の階級で)勝てないから減量して階級を落として戦う、格闘技ってそういうことじゃないじゃん。勝てないならもっと他にアップデートすることがあるじゃんと俺は思う」
ナチュラルな方が力は出る。ならば、使える技も増えるのか。そんな質問をしたが愚問だった。
「減量に時間を割かなくていいから(当たり前)。例えば格闘技の練習を2時間します。それとは別に減量のために前後1時間走ります。減量がなければ、前後の2時間分をテクニックの研究とかそういう練習に費やせるわけですよ。しかも体もフレッシュな状態なわけ。そこで学べるものの方が大きいですよね」
青木に言わせれば減量は「チート」。MMA世界最高峰の舞台「UFC」に出場する選手は「みんな減量をしている」という意見もあるかもしれない。
「みんな言うよね。でも、あれは人生のほんの数年のチートじゃん。(UFCは)チートの集まりじゃん(笑)。国内レベルでチートして『世界で戦う』って言ってるのは滑稽だよ。UFCに行ってからやるのとワケが違う」
「生き方が問われるんだよ――。思想・信念・主義・主張って俺は言うけど、減量にしてもドーピングにしても、どうやって物事に向き合ってるか、姿勢が問われるんだと思う」。青木が減量をしない理由。それはこの一言に凝縮されていた。
減量も一見すると科学的になってきている。危険を減らすことはいいことだ。一方でファンは苦しい減量に打ち勝つ格闘家を見るために応援しているのだろうか。勝利至上主義が加速している現在、記録だけでなく生き様を見せる選手がいてもいい。