ファンと女性杜氏の活躍、新世代に期待…日本酒イベントで新風が吹く
長野県上田市の「信州亀齢」を応援する人々は、試飲だけでなく、グッズにサインをもらうなどして盛り上がった。「日本酒の日」である10月1日は、各地で酒蔵が日本酒造りを始める「酒造元旦」と呼ばれ、この前後に多くの日本酒イベントが開催される。関西各地でも、10月を中心に様々な日本酒イベントが行われている。
長野県産日本酒の試飲会「YOMOYAMA NAGANO」は、東京浅草から全国4か所で開催され、関西では「ウェスティンホテル大阪」(大阪市北区)で7月に催された。長野県内から54の酒蔵が出店し、平日昼間の開催にもかかわらず、多くの熱心な日本酒ファンが来場した。
日本酒の国内出荷量は1973年をピークに減少傾向にあり、2023年は前年比でやや減少し、約39万キロリットルとなった。一方、海外への輸出量は、日本食ブームにより増加傾向にあり、アメリカ、中国、韓国、台湾、香港などの需要が多い。
長野県日本酒組合副会長の田中隆太(田中屋酒造店代表)は、「イベントへの参加が増え、名称変更とコンセプトチェンジを行いました。イベント名の『YOMOYAMA NAGANO』は、長野県の地理的特徴と、来場者と蔵人の交流を表しています」と述べた。
長野県には約80社の酒蔵があり、酒蔵数は全国2位。今年の「令和5年酒造年度全国新酒鑑評会」では、金賞を7品受賞し、品質でも全国トップレベルを誇る。長野県は広大な地域にまたがり、各地方の食文化に合わせて、地域特有の味わいを持つ日本酒が造られている。伊藤酒造(諏訪市)の伊藤社長は、「各酒蔵は地域の食事に合う味を追求しており、飲み比べてみるのがおもしろい」と語る。
長野県内の約80の酒蔵のうち、大部分は50名以下の中小蔵で、蔵人たちの工夫や個性が酒に直接反映される。そのため、それぞれの酒蔵のファンがつくのも納得がいく。
今回のイベントでは、ボランティアが各酒蔵のブースでお手伝いをし、蔵人たちと協力して試飲に関する作業を担っていた。「高沢酒造」(小布施町)の高沢賀代子さんは杜氏として活躍し、夫と協力して酒造りを行っている。「高沢酒造」の「豊賀」は、少人数で手間暇をかけて造られるため、限定販売となっている。大阪のボランティアスタッフは「『豊賀』は高沢さんのお人柄が反映された、やわらかくやさしい酒」と評する。
高沢さんは「関西の方々との交流が酒造りのモチベーションにつながっています」と話す。長野の女性杜氏同士の交流も活発で、以前は男性中心だった酒造りの世界で、協力し合う女性杜氏が増えてきている。
イベントの終盤、特に賑わっていたブースは「信州亀齢」の岡崎酒造(上田市)だ。女性杜氏の岡崎美都里さんと社長の謙一さんが試飲ブースを構え、ファンがサインを求めていた。「信州亀齢」のファンは、会社を休んで参加するほど熱心で、「キレのある本当においしいお酒なので、絶対飲んで欲しい」と推す人もいた。
長野の酒造りの現場では、世代交代が進み、40代の社長も増えている。以前消極的だった酒蔵も、消費者との直接交流を重視し、イベントへの参加が増えてきている。「YOMOYAMA NAGANO」には、50を超える酒蔵が参加し、大阪まで足を運んだ。今後、新たな世代の蔵人たちが造る日本酒にも注目が集まる。