カネコアヤノ、バンドとしての新たな道へ:「野音ワンマンショー 2024」レポート

カネコアヤノ、バンドとしての新たな道へ:「野音ワンマンショー 2024」レポート

カネコアヤノ ワンマンライブ「野音ワンマンショー 2024」レポート

2024年8月3日(土)、日比谷野外大音楽堂でカネコアヤノのワンマンライブ「野音ワンマンショー 2024」が開催されました。この公演は、東京と大阪で開催された「野音ワンマンショー」の一部で、カネコアヤノが独創性と大衆性を兼ね備えた楽曲と、バンドとしての濃密なパフォーマンスを披露しました。

開演前の雰囲気

開演30分前、会場にはすでに多くのオーディエンスが集まっていました。ビールを楽しむ人々も多く、まるでフェスのような雰囲気が漂っていました。この日の東京の最高気温は約35度。日が落ちても蒸し暑さが残っていましたが、ときどき吹き抜ける風が心地よかったです。花をモチーフにしたTonnyaparのイラストがプリントされたグッズ(Tシャツ、タオル)も可愛らしく、BGM(コクトー・ツインズやウィルコ)もセンスが良くて、気分が高まりました。まさに最高の「夏の野音」の日となりました。

野音ワンマンショーの歴史

「カネコアヤノ 野音ワンマンショー 2024」は、日比谷野外音楽堂と大阪城野外音楽堂で行われる「野音ワンマンショー」の3回目です。少しずつ「夏の恒例ライブ」という雰囲気になってきていますが、8月3日の日比谷野外音楽堂での公演は、カネコアヤノにとって特別なものになりました。その理由は、ライブの最後に彼女が告げた「私からお知らせがあるんですけど、バンドになりました」という言葉です。

バンドスタイルの進化

カネコアヤノのライブのスタイルは、主に弾き語りとバンドスタイルの2つがあります。サポートメンバーの林宏敏(g)、takuyaiizuka(b)、Hikari Sakashita(ds)は、それぞれバンドマン/ミュージシャンとしての豊富なキャリアを持ち、様々な現場で活躍しています。彼らはオルタナ、ポストパンク、サイケデリック、カントリー、フォークなど、幅広いジャンルに対応できるのが強みです。

昨年のフジロックで見たときは、「カネコアヤノの音楽を支える、めちゃくちゃ優れたライブバンド」という印象でしたが、この日のライブを観て、そのイメージは大きく覆されました。端的に言うと「これもう完全にバンドじゃん」という確かな実感がありました。そのため、ライブの終わりに「バンドになりました」と告げられたときも驚きはなく、「そうだよね」という納得感がありました。会場にいたオーディエンスの多くも同じ気持ちだったでしょう。

ライブのハイライト

ライブは最高のものでした。蝉の声が響き渡る中、ステージに登場した4人は、会場を埋め尽くした観客に向けて「サマーバケーション」で幕を開けました。ゆったりと切ないバンドサウンドから、中盤にいきなりテンポアップし、刹那的な解放感が広がる曲で、夏の野音にぴったりのオープニングとなりました。

その後、鋭利なギターサウンドと「変わりたい代わりがいない わたしたち」というラインが響き渡った「わたしたちへ」、軽やかなベースラインに導かれたカントリー&スカなポップチューン「栄えた街の」、喜怒哀楽のすべてをぶつけるようなボーカルに心を奪われ、しなやかなバンドグルーヴに体を揺さぶられる「明け方」、冒頭のギターのフレーズが鳴った瞬間に「おー!」という歓声が沸き上がり、「新しいものを買いに行こうよ/しあわせだよ今」という歌詞にほっこりさせられた「ごあいさつ」と続きました。

ライブの魅力

カネコアヤノのライブにはMCがなく、すべての楽曲を結びつける形で行われます。音が途切れる瞬間はほとんどなく、たとえば誰かがチューニングや楽器を変えるときは他の誰かが音を鳴らし、次の曲へとつなげます。メンバー4人はお互いに目線を交わしながら演奏し、音を奏でることに集中します。観客はそれを受け取り、踊ったり、口ずさんだり、ときどきお喋りしたり、それぞれ好きなように楽しむことができます。

みんなで一斉に手を挙げたり、揃いの振付があったり、「この曲はシンガロングだよね」みたいなお約束も一切ありません。ただただカネコアヤノの音楽を共有しているという1点によって心地よい一体感が生まれます。誰も拒否しないし、何も押し付けない、その雰囲気がとんでもなく心地よかったです。メンバーがいい演奏をしたり(派手なギターソロでめちゃくちゃ盛り上がる)、いい歌を歌った瞬間に沸き起こる歓声も最高でした。野音の解放感もあって、この日は本当に自由な音楽空間が広がっていました。

特別なアレンジ

ライブならではのアレンジも彼女のステージの醍醐味です。ライブ中盤で特に心に残ったのは「気分」と「タオルケットは穏やかな」でした。「気分」ではフォーキーな手触りのサウンドにサイケデリックなギターが絡み合い、「気分はいつも/上がったり下がったり」という状態を生々しく表現。エンディングではカネコが感情を全開にしながら激しく歌い、ドラム、ベース、ギターが互いを高め合うように爆発的なサウンドを打ち鳴らしました。混沌としたテンションのまま「タオルケットは穏やかな」へ突入するアレンジがあまりにも素晴らしく、会場のあちこちで「ウォー!」という雄叫びが上がりました。「いいんだよ 分からないまま/曖昧な愛」というフレーズをめいっぱいの力で歌うカネコの姿は、この日のライブの最初のハイライトでした。

新曲のインパクト

新曲「ラッキー」のインパクトもすごかったです。ダブとサイケが混ざり合うような音像の中で、浮遊感に溢れたメロディがたゆたい、現代詩のような歌が広がっていくこの曲は、カネコアヤノの新機軸と言えるかもしれません。音源よりも凄みを増した演奏も最高でした。

後半の展開

19時近くになり、すっかり日が暮れた野音のステージを赤いライトが照らす中、「こんな日に限って」へ。ここからはカネコアヤノの歌の力、そして、このバンドの奥深い魅力がさらに強く実感できるシーンが続きました。オーセンティックなロックンロール「カーステレオから」では、不安を吹き飛ばすような「でっかい音の笑えるギター」のパワーを歌とギターでダイナミックに表現。さらに、洗練されたギターのコードが印象的な「ゆくえ」、ブラシを使ったドラム、繊細なギターのフレーズ、触れば壊れそうなメロディが溶け合う「月明かり」、ミニマルなアンサンブルの中で「もう少し大丈夫になったら」というラインが繰り返される「やさしい生活」、そして、歪んだベースを軸にしたオルタナティブなサウンドが炸裂した「腕の中でしか眠れない猫のように」。楽曲を重ねるたびに、鋭利で奥深い感情をたたえた歌、有機的なバンドグルーヴが大きく広がっていきました。

エンディング

新曲「さびしくない」の後は、「恋しい日々」と「アーケード」とアッパーな曲を続けて披露し、客席では大合唱が自然発生。音楽を介したエネルギーの交歓が頂点に達し、ライブはエンディングを迎えました。演奏時間は1時間30分強でしたが、体感としては一瞬。「19曲で1曲」にも感じられるステージは、まるで真夏の夢のようでした。奔放な創造性を反映した演奏とそれを好きなように受け取る観客の関係性を含め、ライブの理想の姿がそこにありました。

今後の活動

前述した通り、カネコアヤノ、林宏敏、takuyaiizuka、Hikari Sakashitaは正式にバンドとして活動していくことが決定しました。今後のバンドでの活動は「kanekoayano」名義となり、ソロ活動は「カネコアヤノ」として行います。10月から12月にかけて弾き語りツアー「カネコアヤノ 単独演奏会 2024」を開催するカネコアヤノ。これから彼女は、バンド/ソロの両方の表現をさらに深く追求していくことになるでしょう。

公演情報

カネコアヤノ ワンマンライブ「野音ワンマンショー 2024」

  • 日時:2024年8月3日(土)
  • 場所:日比谷野外大音楽堂

セットリスト

  1. サマーバケーション
  2. わたしたちへ
  3. 栄えた街の
  4. 明け方
  5. ごあいさつ
  6. さよーならあなた
  7. エメラルド
  8. 気分
  9. タオルケットは穏やかな
  10. ラッキー
  11. こんな日に限って
  12. カーステレオから
  13. ゆくえ
  14. 月明かり
  15. やさしい生活
  16. 腕の中でしか眠れない猫のように
  17. さびしくない
  18. 恋しい日々
  19. アーケード

ライブ情報 『カネコアヤノ 単独演奏会 2024』

  • 10月14日(月・祝) 北海道・モエレ沼公園 ガラスのピラミッド
  • 10月22日(火) 東京・キリスト品川教会 グローリア・チャペル
  • 11月9日(土) 山梨・甲府 桜座
  • 11月10日(日) 長野・上田映劇
  • 11月14日(木) 福岡・ももちパレス
  • 11月16日(土) 島根・興雲閣 大広間
  • 11月22日(金) 宮城・仙台銀行ホール イズミテイ21 小ホール
  • 12月11日(水) 大阪・大阪市中央公会堂
  • 12月19日(水) 神奈川・大さん橋ホール<day1>
  • 12月20日(金) 神奈川・大さん橋ホール<day2>

Text:森朋之