有村架純の“しんどい役”:その魅力と強さ

有村架純の“しんどい役”:その魅力と強さ

有村架純が演じる“しんどい役”の魅力

9月23日に最終回を迎えるドラマ『海のはじまり』で、主人公・夏(目黒蓮)の恋人・百瀬弥生を演じる有村架純は、近年、過酷な状況に追いやられ、心身ともに疲弊する“しんどい役”を任されることが多い。この記事では、有村架純を代々続く“薄幸女優”の系譜に位置づけ、彼女の役者としての魅力を紐解いていく。

日本の“薄幸女優”の系譜

日本では以前から“薄幸女優”という括りがある。代表的な女優としては、木村多江や吉田羊が挙げられる。これらの女優は、すっきりとした顔立ちの和風美女で、演じる役も「わ~、この人、幸(さち)薄そう~」という雰囲気を作り出す。木村多江や吉田羊は、見た目も含めて、存在そのものが“薄幸女優”という特徴を持っている。将来はおそらく田中裕子という、大先輩の道が待っている。

“薄幸女優”の役割

群雄割拠の芸能界において、「不幸そうな役をやらせたら、この人」と白羽の矢が立つのはけして悪いことではない。むしろ、おいしい。木村多江本人もインタビューで「薄幸の役は木村多江しかいないと言っていただけるのは、役者冥利に尽きます」(夕刊フジ/2009年11月)と話している。

有村架純の“しんどい役”

ただ、この気流に少し変化の兆しが見えている。薄幸……いや現代風に言うのなら“しんどい”なのだろうか。不幸そうな役を演じると、キラリと光る女優が有村架純だ。現在放送中の『海のはじまり』(フジテレビ系)で演じる、百瀬弥生役をはじめ、近年、彼女が演じる役は設定だけでも、しんどい。それでも役柄にすっぽりとハマっている。

有村架純の魅力

彼女の顔立ちは目鼻立ちのくっきりとしたタイプ。木村多江らとは真逆の雰囲気の平成生まれ。令和の芸能界に薄幸女優・ニューウエーブとして、燦然と存在感を放つ有村架純はなぜ、しんどい役なのに輝くのか。

代表作を振り返る

有村架純の出演作で“しんどさ”が目立った作品をいくつか振り返ってみる。

『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(2016年、フジテレビ系)

杉原音役を演じた。母子家庭で育ち、幼い頃に母を亡くし、育ての親のヤングケアラーに。東京で介護福祉士の仕事を始めるも、長時間労働を強いられる音。加えてトラブル続きで恋愛もうまくいかない。なかなか笑顔の見えない役を23歳にして、手中にしていた。

『中学聖日記』(2018年、TBS系)

中学生教師・末永聖に。結婚を控えて、公私ともども好調だったはずなのに、生徒と恋に落ちてしまう。住んでいた街を追われて、また教師をはじめても「生徒と恋愛関係」という事実がどこまでもつきまとう聖。ちょうど朝ドラ『ひよっこ』(2017、NHK総合)を終えてから、初めてのドラマ出演とあって注目度も高かった作品。最終話まで幸せになれず、全11話、しんどかった。そして主題歌のUru『プロローグ』もしんどさをさらに増量させる。

『そして、生きる』(2019年、WOWOW)

生田瞳子役を演じた。両親を亡くして、叔父に育てられ、ボランティアで出会った青年と結ばれるも、彼は海外へ。瞳子は彼の子どもを妊娠。一時はテロに巻き込まれたかもしれないと心配した彼は、帰国すると瞳子の友人と恋人同士になるという、ドラマによくある修羅場へ。それでもシングルマザーとして強く生きることに。

脚本家の影響

これらの作品の設定でもある「大事な人を亡くしている」パターンは、前述の杉原音役も同じく、非常に目立つ。その背景にいるのが、脚本家の岡田惠和だ。

彼は『そして、生きる』から有村主演で脚本を執筆しているが、彼女が薄幸そうな役が似合うことに気付いたのか、2020年放送の『姉ちゃんの恋人』(フジテレビ系)でも、両親を事故で亡くして弟3人を育てる安達桃子を描いている。さすがの審美眼だ。

続けて今年の11月配信予定の『さよならのつづき』(Netflix)でも脚本を担当する岡田。有村演じる主人公のさえ子は、恋人を事故で亡くすところから始まるらしい……。もう書いていても辛い。可哀想すぎて、有村を真正面から見られないような気さえしてきた。

しんどい役の総決算

2023年配信の映画『ちひろさん』(Netflix)で演じた、ちひろも切なかった。元風俗嬢で、家族ともうまくいかず、海辺にある弁当屋で働きながら、地元の住人たちを癒している。なぜ不幸設定の女性は弁当屋で働く率が高いのか? も興味深いが、この役も有村によく似合っていた。

そして話題作となった『海のはじまり』(フジテレビ系)の百瀬弥生は、しんどい役の総決算なのかと疑った。

母親とも折りが合わず、若いうちに恋人の子どもを中絶。やっと巡り会えた優しい恋人の月岡夏(目黒蓮/Snow Man)と結婚も視野に入れていたのに、突然、子持ちに……。そのうえ相手の母親から「子ども産んだことないでしょ」と言われ、亡くなった元恋人から手紙を受け取る羽目に。私なら序盤のうちにダッシュで逃げると思うが、弥生は耐えた。そして別れた。これだけでも切ないのに、別れた後も元彼の子どもの相手をしているとは、もう聖母マリアの域だ。

有村架純の強さ

私の記憶の範疇で並べたしんどい作。実際、有村はこの倍以上の作品へ出演し続けていて、どれも役柄はバラエティーに富んでいる。これは演じる者としては通常運転だと思う。

ただ「かわいそう」「不幸」「切ない」「泣ける」「しんどい」といったワードが並ぶ作品は、良くも悪くも目立つ。その作品を30歳前半にして約7作も経験している有村は、女優として強すぎるのだ。ではなぜそんな役が回ってくるのかといえば、有村架純は疲れているのではないかと思う。

リアリティを増していく“しんどい演技”

ここ数年、若者を中心にして頻繁に使われる「しんどい」とはネット辞書で調べると「ひどく疲れを感じるさま」「肉体的・精神的な負担を感じ、その負担が長く続くのは、いやだと感じられるさまを表す形容詞」とあった。なるほど。

『海のはじまり』のスタート前、彼女が痩せているとファンが気づいた。働きすぎかもしれないし、30代前半の女性なんて公私ともども悩みだらけだ。が、10代で女優を志して、一度はダイエットを命じられたこともある彼女。それが2014年以降はほぼ休まず、作品に出演し続ける所属事務所の看板女優となった。

本日に至るまで10年以上も突っ走ってきたら、そりゃ疲れるし、しんどい演技にリアリティも増す。2023年、彼女は映画ネット媒体のインタビューでこう話す。

「20代はお仕事のために生きてきて、自分がお仕事を頑張れば、周囲のみんなも幸せになれるはずだと、その人たちのために頑張っているようなところがありました。ただここ2年くらいは、そろそろ自分自身の幸せについて考えてもいいのかな」(クランクイン!/2023年2月)

いい、いいよ。有村さん、そろそろ安寧の場所を確保してください。