「一発屋芸人」の減少:テレビ衰退と大衆文化の危機

「一発屋芸人」の減少:テレビ衰退と大衆文化の危機

ここ数年、お笑い界は全体的に活気づいている。ベテランから若手まで幅広い世代の芸人が活躍しており、テレビ、ラジオ、YouTube、ライブなどでそれぞれの芸風を発揮している。しかし、一歩引いて世間一般の目線からお笑い界を眺めると、「一発屋芸人」と呼ばれるような華々しい大ブレークを果たしている芸人が、近年ほとんど出てきていないことに気付かされる。

「ゲッツ」のダンディ坂野や「そんなの関係ねえ」の小島よしおのように、特定のキャラやギャグで人気に火が付き、どの番組に出てもそれを求められる芸人が現時点では存在しない。ここ数年でもほとんど現れていない。

一発屋芸人が減ってしまった理由は大きく分けて3つ考えられる。1つ目は、一発屋芸人を育てる番組が減っていることだ。2000年代後半のお笑いブームの時期には、プライムタイムに『エンタの神様』(日本テレビ系)や『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ系)といったネタ番組がレギュラー放送されていて、芸人が大量に出ていた。これらの番組から多くの一発屋芸人が世に出てきた。しかし、最近のテレビではそのような影響力の大きいネタ番組が存在していない。そのため、特定の芸人がある番組で注目されて一時期だけ話題になることはあっても、その波がほかの場所まで広がりにくい。

2つ目は、無名の芸人が起用されるような番組が極端に少なくなっていることだ。最近の若手芸人の大半は、漫才師であれば『M-1グランプリ』を、コント芸人であれば『キングオブコント』を第一の目標にする。これらの賞レース番組が彼らが世に出るための唯一のチャンスとなっている。しかし、何も実績を残していない芸人は、どんなに面白くてもテレビに出るきっかけそのものをつかむことができない。そのため、若手芸人は問答無用で賞レースに挑むしかない状況に陥っている。

3つ目は、芸人がすぐにキャラをはぎ取られてしまう風潮があることだ。『エンタの神様』や『爆笑レッドカーペット』はネタ番組なので、そこに出る芸人はネタを見せるだけであり、トークをすることはない。そのため、彼らは1つのキャラクターを貫いて、内面を見られない状態で世に出ることができた。しかし、最近のバラエティ番組はトークが主体であるため、駆け出しの芸人がすぐにその素顔を暴かれてしまう。これは、番組の性質上、避けられないことではあるが、芸人が1つのわかりやすいキャラクターを用意して、それを広めることができなくなってしまう。

さらに、子供や若者のテレビ離れも一発屋芸人が減った理由の1つだ。娯楽が少なかった時代には、多くの子供や若者が流行の発信源であるバラエティ番組を欠かさずチェックしていた。しかし、今はそのような風潮がなくなりつつある。テレビを見ないでYouTubeばかり見ている若い世代は珍しくない。一発屋芸人が世の中に広がるためには、子供や中高生がその人のことを話題に出したり、真似したりすることが不可欠だ。今でもそういうことはあるが、子供が見られる時間帯に放送されるネタ番組がほとんどないため、そこから芸人が出てくることがない。

一発屋芸人が出てこないことは、必ずしもお笑い界にとって悪いことではない。一発屋芸人は一種の蔑称であり、そのように名指しされて良い気分がする人はいない。しかし、一発屋芸人はお笑い業界が盛り上がっていることを示す象徴的な存在でもある。そのような人が出てきていないということは、大衆文化としてのお笑いが危機に瀕しているとも言える。

一発屋芸人はテレビの衰退とともに滅びていく運命にあるのかもしれない。