『ドラゴンボール』の悪の支配者たち:ピッコロ、フリーザ、セルの支配方針を比較

『ドラゴンボール』の悪の支配者たち:ピッコロ、フリーザ、セルの支配方針を比較

『ドラゴンボール』シリーズには、それぞれ特徴的なラスボスが登場し、印象的なシーンを提供しています。特にピッコロ大魔王、フリーザ、セルの3人は、それぞれ異なる目的と方法で世界や宇宙を支配しようと企て、読者に強い印象を残しています。

ピッコロ大魔王は、自らが悪の象徴として君臨し、犯罪行為のすべてを許可する支配方針を採用しました。天下一武道会直後、クリリンが殺されるというショッキングな展開から始まった「ピッコロ大魔王編」では、ピッコロ大魔王が「世界の王」が住むキング キャッスルを占拠し、テレビ中継を使って新たな国王として世界の前に現れました。中継では、「キライなコトバは‘正義’と‘平和’だ」と述べ、「警察は廃止、戦争、暴力、強盗、殺人…なんでも自由」と宣言しました。さらに、「正義をふりかざす者はわが魔族がことごとく退治してやる」とまで言いました。ピッコロ大魔王は神様が分離させた悪の心の化身であり、心の底から“正義”を嫌っていることが分かります。彼の支配方針は、自身が王として君臨し、“自由”という名の恐怖と破壊による無秩序な世界を作ることでした。

フリーザは、自らの軍を使って経済的・政治的な征服を目指しました。ナメック星で展開された「フリーザ編」では、フリーザが数多くの惑星を次々に侵略し、占領・破壊・殺戮を繰り返す宇宙規模の侵略者として描かれています。フリーザは自身が宇宙一ともされる圧倒的な力を持ちつつも、自らの軍を作り、組織的かつ効率的な方法で銀河を支配しようとしました。作中では、フリーザが自ら動けばすぐ解決できるようなことであっても、ザーボン、ドドリアなどに指示を出し、積極的に部下たちを動かす姿がたびたび見受けられます。また、成果をあげた部下に対してフリーザは賛辞の言葉を忘れないなど、組織運営に長けていることが伺えます。フリーザの目的はあくまで利益と権力の拡大であり、そのための支配だったといえます。

セルは、自分自身が“完全体”として進化し究極の力を手にすることが目的であり、世界の支配にはさほど興味がありませんでした。ドクター・ゲロが作り出した人造人間たちが暴れまわった「人造人間・セル編」では、セルの目的は自身が強くなることでした。ピッコロ大魔王やフリーザの場合、自身の強さはあくまで手段に過ぎず、最終的な目的は世界や宇宙の支配でしたが、セルは手段と目的が逆でした。セルゲームを開催し世界中の人々に宣戦布告をしたのも、世界の支配がしたかったのではなく、自分自身が究極の存在であることを証明するためのものでした。実際、悟空から接触を受け「試合にはかならず出てやる だからそれまではもうだれひとり殺すんじゃねえぞ」と言われるとニヤリと笑い、それ以降、セルゲーム会場で大人しく待ち続ける姿がありました(先に手を出してきた軍隊には容赦なかったが……)。セルは、圧倒的な力で結果的に世界を恐怖に陥れたものの、ただ自己実現に熱心で世界の支配自体にはあまり興味がなかったようでした。

『ドラゴンボール』に登場する3人の悪の支配者たちの支配方針を比較すると、ピッコロ大魔王は恐怖と破壊による支配を目指し、フリーザは経済と軍事を駆使して宇宙を統治し、セルは自身の完全体への進化を最優先にしていたことが分かります。世界を恐怖に陥れたという事実は同じでも、それぞれがまったく違う目的を持ち行動していたのが印象的です。ラスボスを筆頭に敵キャラ1人1人にも個性があることが、『ドラゴンボール』が最高に面白かった理由の一つではないでしょうか。