『踊る大捜査線 THE MOVIE3』:青島の昇進と失われた個性、シリーズの変遷
1997年に『踊る大捜査線』(フジテレビ系)がドラマシリーズとして放映された当時、視聴者が新鮮に感じていたのは、本作で描かれる組織論と、あえて地味な事件を描く当時の王道刑事モノに対するカウンターとしての部分だった。
警察官であっても、組織の中でルールやしがらみに従って捜査や仕事を行わなければならない苦悩が描かれた。また、殺人事件や爆発事件といった派手な事件ではなく、刑事にとって地味な日常の事件が、それぞれに被害者や加害者の人生や痛みが浮かび上がるスリや暴行、ストーカー事件などが描かれ、これが『踊る大捜査線』ドラマシリーズの素朴だが確かな魅力となった。主人公の青島俊作(織田裕二)が現場の人間、特にヒラの刑事として、上司や上層部と対立しながらも、信念に基づいて事件を解決する姿に視聴者は惹かれた。
放送当初は、当時のドラマ市場で特に高い視聴率を獲得していたわけではなかったが、口コミで確かな人気を獲得し、2度のテレビスペシャルを経て映画化された。1998年に公開された『踊る大捜査線 THE MOVIE』は、署内での窃盗事件と映画映えする変死体や警視庁副総監の拉致といった大きな事件が絡み合う作劇で大ヒットを果たした。5年後に公開された『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』では、『THE MOVIE』の構造を踏襲しながら、「事件に大きいも小さいもない」という『踊る大捜査線』のテーマを再提示し、実写邦画興行収入第1位を達成した。
『THE MOVIE 2』から7年後の『踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!』では、青島俊作が係長に昇進し、多くの後輩ができた。組織の様相も変わり、馴染みの湾岸署は新湾岸署へと移転した。出世した青島は以前よりもぎこちなく、劇中では重い病気を告げられる。これまでとは異なるしがらみや老い、新しい十字架を背負った青島の姿は新鮮さを覚える一方、ドラマシリーズや『1』『2』のような痛快さは感じにくい作風となっている。その代わりに、バズジャックや拳銃盗難とそれを使用した殺人、警察署の占拠や爆発といった派手な事件が『3』では起こる。テレビシリーズに慣れ親しんだ視聴者にとっては、随分と遠くに来たと感じる作劇だ。
『踊る大捜査線』は、当初は王道警察モノに対する邪道、非主流派として成長したが、大ヒットを果たし、自らが王道・本流となってしまった。青島もまた、自身が皮肉ってきた上司になってしまい、部下に健康診断の受診を促すようになったが、青島自身が上司的ムーブに不向きな上、事件現場に突っ込んでいく人柄であるため、きまりの悪さを感じさせる。邪道から本流に、カウンターを打つ側から受ける側に変わった悲喜が本作には漂っている。
しかし、『踊る』という世界線が史上最大化したのもまた本作であり、ファンムービーとして充実した作品となっている。湾岸署の面々やキャリア組、SIT、SAT、爆発物処理班、交渉課などの警察側のキャラクター、そして青島がこれまで逮捕してきた数々の容疑者たちが一斉に登場する様は圧巻であり、『踊る』オールスタームービーとして十分に楽しむことができる。特に内田有紀演じる女版青島と呼ばれる篠原夏美の再登場は、コアなファンにとっても嬉しい要素だ。一つのお祭り的作品として、そしてその裏にある本シリーズの悲喜を感じ取ってほしい。