『虎に翼』の舞台裏:吉田恵里香さんによるドラマ制作の秘密
吉田恵里香さんによる『虎に翼』の舞台裏
NHK連続テレビ小説『虎に翼』は、日本初の女性弁護士の一人である三淵嘉子をモデルにした作品です。主人公の寅子が戦前の女子部時代から弁護士、そして戦後は裁判官として働く姿を描き、世の中の「はて?」と対峙する姿が視聴者を魅了しています。最終回を前に、脚本家の吉田恵里香さんのインタビューを紹介します。
最終回への思い
「悔いなくやりきった」と吉田さんは語ります。もちろん反省点もあるとのことですが、今の自分の力を出し切ることができたと感じています。初めての朝ドラを出演者やスタッフの協力のもとで書けたことは、非常に喜ばしい経験だったと述べています。
主演の伊藤沙莉さんについて
伊藤沙莉さんが寅子を演じてくれたことで、物語を深く掘り下げることができたと吉田さんは感謝しています。他の俳優が演じていたら、寅子のような疑問や対話を諦めない生き方ではなく、もっと分かりやすいキャラクターにしたかもしれません。伊藤さんは怒りを表現しても嫌われない稀有な才能を持った俳優だと評価しています。
視聴者の反応
視聴者の反応については、バランスを取ることが重要だと吉田さんは考えています。SNSの反応を知りすぎると作品に影響が出る可能性があるため、執筆中はなるべくSNSを見ないようにしていました。ただし、放送の初めの頃に評判が良いとスタッフから教えてもらったことで、視聴者を信じて書く決意を新たにできたと述べています。
重要なテーマの扱い
『虎に翼』では人権やLGBTQなどの問題を扱っています。社会の様々な問題に正解はないと考えていますが、言わなければならないことがあると吉田さんは強調します。作品解釈は自由ですが、SNSで差別的な発言があったときに黙っていると、その行為を肯定することになってしまうため、積極的に意図を説明することが重要だと述べています。
シナリオの制作過程
シナリオの制作には、自分で調べた内容とスタッフからの資料を組み合わせ、プロットや初稿を作成しています。その後、考証の先生方に見ていただくことで、史実に沿った内容を確認しながら書くことができました。エンターテインメント作品をつくる際には、「事実をどこまで崩すか」が重要な問題ですが、朝ドラという性質上、なるべく事実に沿いたい気持ちが強かったと吉田さんは語ります。
パートナーシップと家族の描き方
『虎に翼』では、様々な形でのパートナーシップや血縁関係に依らない「家族のようなもの」が描かれています。異性同士の関係性が「恋愛ありき」にならないように気をつけていました。例えば、轟とよねは2人で弁護士事務所を始めますが、男女のカップルになる展開は避けました。LGBTQの問題については、寅子自身が当事者ではなく、世の人の言う「普通」のライフステージを歩ませたことで、より広い視点で描くことができたと述べています。
モデルのあるドラマの書き方
モデルとなる三淵嘉子さんの根底の部分とずれがないように心がけました。三淵さんは男女平等と女性の社会進出のために、様々な発言や行動をされました。未解決の問題を描くことで、当時の社会の課題を浮き彫りにしています。寅子と航一が事実婚を選択したことも、モデルの三淵さんとは異なる選択でしたが、今の吉田さんのベストを書いた結果だと述べています。
家族の支え
吉田さんは現在、小さな息子を育てていますが、母の支えが大きいと語ります。忙しい日の夕飯は母が作ってくれ、朝ドラが始まってからは毎日栄養バランスを考えた夕食を用意してくれています。保育園のお迎えも「ばあばでもいい」と言ってくれるなど、家族の支えが仕事の助けになっています。
母の言葉
出産した日の夜もパソコンに向かっていた吉田さん。母は「せっかくここまでやってきたんだから、全速力でやれるように頑張りなさい」と励ましてくれました。この言葉がなければ、仕事をセーブしていたかもしれません。『恋せぬふたり』を書くことができたのも、この言葉があったからだと感謝しています。
シナリオ集の出版
『虎に翼』のシナリオ集が10月21日に発売されることが決まり、吉田さんは喜びを語っています。紙のシナリオ集の出版は夢だったそうで、『あまちゃん』のシナリオを読んだときの楽しさを思い出しています。ドラマ本編だけでも楽しめるように作っていますが、監督インタビューやシナリオから放送されなかった設定や情報を知るのが好きだと述べています。
結語
『虎に翼』は、主人公の寅子の成長と「法とは何か」という課題がシンクロしながら進む絶妙なシナリオで、視聴者を魅了しています。最終回を前に、吉田恵里香さんのインタビューを通じて、作品の舞台裏や制作過程を深く理解することができました。『虎に翼』のシナリオ集の発売も楽しみにしたいところです。