三谷幸喜監督の『スオミの話をしよう』: 理想の映画製作と豪華キャストの絶妙な融合

三谷幸喜監督の『スオミの話をしよう』: 理想の映画製作と豪華キャストの絶妙な融合

理想的な映画づくりができた三谷幸喜監督=映画『スオミの話をしよう』

映画『スオミの話をしよう』が公開中です。この作品は、三谷幸喜監督が脚本と監督を務め、長澤まさみが主演を務めるミステリー・コメディです。主人公スオミが突然行方不明になったことをきっかけに、彼女の過去を知る5人の夫たちが豪奢な邸宅で繰り広げる「自分がもっともスオミのことを愛している、誰よりも理解している」というマウントの取り合いが展開されます。

役者たちの感想

坂東彌十郎

彌十郎さんは、スオミの5番目の夫で、身勝手な芸術家・寒川しずお役を演じました。彼は三谷監督との初共演であり、舞台「三谷かぶき『月光露針路日本~風雲児たち』」(2019年)での経験を活かして参加しました。彌十郎さんは、三谷監督の演出について次のように語っています。

「三谷さんとは舞台でご一緒させていただきました。舞台の時のように、お稽古の時間がありましたが、本番で急に台本が変わったり、『これを増やしてみましょう』と言われたりするので、安心していられないんです。監督の要求に柔軟に対処できなかったら悔しいじゃないですか。だからいつも頭を柔らかくしていなければなりません。それが楽しくもあったんですよね。」

また、映画の撮影についても触れています。「僕は今回の三谷組しか知らないので、『こんなに楽しいなら、映画にまた出たいな』『本当に楽しいですね、映画の撮影って』と西島さんに言ったら、『全部がそうだと思わないでください』と言われました(笑)。」

西島秀俊

西島さんは、スオミの4番目の夫で、神経質な警察官・草野圭吾役を演じました。彼は三谷組初参加で、三谷監督の演出について次のように語っています。

「映画の撮影では、テストを重ねて、演技が固まったところで本番を撮ることが多いと思います。しかし、三谷監督の場合は、リハーサルでやったことをベースにしながらも『次はこうしてみて』と新しいアイデアが次々に出てくるんです。それを、例えば小林さんにだけこっそり伝えるので、次のテイクで急に小林さんがビールを飲み出していて驚くことになったり。皆さんが新しい演技を突然見せてくるので、僕は何度も吹き出してしまい、正直、とても大変でした。でも、その新鮮な驚きが笑いにつながっていくのかな、と感じました。テイクを何度重ねても、同じことを繰り返すことがない。そういう現場は、これまで経験したことがなかったです。」

松坂桃李

松坂さんは、スオミの2番目の夫で、怪しげなYouTuberの十勝左衛門役を演じました。彼も三谷組初参加で、三谷監督の演出について次のように語っています。

「初めて参加した三谷組は、どんな演出が飛んでくるのか、共演した皆さんとどんな掛け合いになるのか、毎日ワクワクしていました。オリジナルでこれだけ面白いものが生み出せる三谷さんは本当にすごい。撮影中、三谷さんが『男が2人、水にずっと浮いている話(シチュエーション)も面白いかもね』って、ボソッと言われたことがあったんですが…。」

遠藤憲一

遠藤さんは、スオミの1番目の夫で、血の気の多い庭師・魚山大吉役を演じました。彼は三谷監督の映画『ギャラクシー街道』(2015年)以来、2作目の参加です。遠藤さんは、三谷監督の台本について次のように語っています。

「台本を読んでゲラゲラ笑っちゃって。なかなか台本の段階で笑い転げる本ってそんなにあるものじゃないから、改めてすごい才能だと思いました。それで撮影が始まったら、バンバン台本を変えていくし、さらに新しいアイデアを生み出していって、それがまた面白くて。三谷監督は『もう少し、こんな感じで、こうしてください』と例えながら演出をしてくださるんですけど、それを聞いているだけでもおかしくて。それに応えなければならない俳優陣もまた大変なんですが、皆さんも面白く打ち返すから、本当に現場は楽しかったです。」

小林隆

小林さんは、スオミの3番目の夫で、情に厚い警察官・宇賀神守役を演じました。彼は三谷さんが主宰していた劇団「東京サンシャインボーイズ」からの長い付き合いです。小林さんは、三谷監督の群像劇について次のように語っています。

「三谷さんは群象劇の大家と言っていいんじゃないでしょうか。劇団の頃から一緒にやってきましたが、毎回、台本を開くのが楽しみで。今回はどんな話だろう?そう来たか!となりますね。今回はいまだかつてない大役をいただいたことと、周りのメンバーのすごさに驚きました。それに今回、大邸宅に住んでいるのが詩人という設定も面白いですね。世の詩人に対するイメージを、ここまで覆すのか、と。この意表を突く設定が三谷幸喜の真骨頂なんじゃないか、と思います。」

三谷監督の手ごたえ

三谷監督は、今回の映画の手ごたえについて次のように語っています。

「結局、演出家って、舞台にせよ映像にせよ一緒だと思うんですけども、どれだけボキャブラリーを持ってるか、ということに尽きる気がするんです。俳優さんもいろいろいらっしゃるから、その人にどういう言い方をすれば一番僕のやってほしいことが伝わるか。その人の面白いところを引き出すことができるか。その言葉選びが一番大事なような気がしています。」

また、三谷監督は、各俳優とのコミュニケーションについても触れています。

「小林さんは昔から知っているから、すごくやりやすいというのもあるし、西島さんと松坂さんは今回初めてだったので、どういう言い方をすればいいのか、探っていくのが僕の仕事だったような気がしています。遠藤さんは2回目だったんですけど、まだちょっとわからない部分があって、ちょっと悩ませてしまったことがありましたね。」

理想的な映画づくり

三谷監督は、理想の映画づくりについて次のように語っています。

「僕の理想は、出演者全員とスムーズにコミュニケーションが取れる、共通言語が成立していて、僕が求めることを短時間で全員が把握してくれる、そんな現場です。小林さんや長澤まさみさん、瀬戸康史さん、宮澤エマさんは、僕の作品の空気感やテンポをしっかり理解してくれていました。初めての西島さんや松坂さん、戸塚純貴さんも、作業を進めるうちにまるで長年一緒に仕事をしてきたような感覚になりました。遠藤さんや彌十郎さんも、親しみを感じられる存在でした。皆さんと一緒に、まさに理想的な映画づくりができたと思っています。」

1シーン1カットの長回し

三谷映画の大きな特徴の一つが「1シーン1カットの長回し」です。三谷監督は、「できるものならすべてのシーンを1カットでやりたいぐらい長回しが好き」と語っています。この演出を実現させるために、映画では珍しくクランクインの約1ヶ月前からリハーサルを敢行。撮影中にも新たな演出がどんどん加わっていったという。

結論

映画『スオミの話をしよう』は、三谷幸喜監督の手腕が存分に発揮された作品です。各俳優の演技と三谷監督の演出が見事に融合し、笑いと感動の絶妙なバランスを実現しています。この作品は、三谷監督が理想とする映画づくりが実現された証であり、観客にとっても非常に楽しい作品となっています。