菅田将暉と黒沢清の衝撃の初共演:映画「Cloud クラウド」
映画「Cloud クラウド」:菅田将暉と黒沢清の初タッグ
俳優・菅田将暉と映画監督・黒沢清が初めてタッグを組んだ映画「Cloud クラウド」が公開される。本作では、転売屋の吉井が悪意にさらされ、その日常が破壊されていく様子が描かれている。
菅田将暉の演技力
菅田将暉が演じた吉井は、転売によって金を稼ぐ「転売ヤー」だ。黒沢監督は菅田について、「うまい人でしたね」と開口一番に語る。
黒沢監督: 「菅田さんは本当にうまい。眼差しは非常に強くて硬いんですけど、喋ると柔らかい。計り知れない個性がなんとも魅力的でした。吉井は懸命に生きていつつ、だんだん危ないことに巻き込まれていく。心情は脚本には書かれていなかったんですけど、1シーンごとに変化するさまを、トゥーマッチでなく丁度いいところで演じてくれた。僕自身、吉井がどんな感情なのか、いまひとつわからないところも多かったんですが、菅田さんを見て僕自身も知る、みたいなことは多々ありました。」
菅田将暉: 「吉井としては一生懸命生きているだけなんですよね。なんとなく自分のプランがあって、ちょっと変えたい今日みたいなものと、明日のイメージがある。その連続なので、ひたすらその一つ一つと向き合っていく感じでした。僕としても本当、どうなるかはわからなかったですね。」
吉井のキャラクター
吉井はごく真面目に目の前のことをコツコツやる人物だ。転売屋という仕事は「楽して儲ける」とはかけ離れており、次から次へと難関を乗り越えていくからこそ、付け込む人が出てきて追い詰められていく。
黒沢監督: 「終盤には『殺す・殺さない』の争いに発展しますが、菅田さんによって吉井に深い陰影と複雑さが生まれ、『人間はこういう感情の流れなんだな』と撮りながらわかった。途中で飛躍しないといけないかと思っていたんですが、ちゃんと確実にここまでいける、ということがわかった。それはアクションシーンに凝縮されています。」
作品の印象的なセリフと演出
作中には「楽して儲けたい」「全然楽にならない」「いつからこうなったんだろう」といった印象的なセリフがいくつも登場する。不穏さや不気味さが漂う演出も、黒沢監督ならではの特徴だ。
黒沢監督: 「ラブストーリーは苦手なんですけど、『ここが地獄だ』的なセリフは得意なんですよ(笑)。現代の日本で『殺す・殺される』関係にはふつうは陥らないだろう人たちがそういう関係になっていく物語なので、吉井を含め、人生が破綻するかしないかの瀬戸際にいるような人たちが集まった感じになりました。今の社会には至るところにギリギリの人たちがいるんだろうなとは実感しましたね。」
菅田将暉: 「恐怖を感じたところはいっぱいあります。吉井目線なら、誰だかわからない人たちに命を狙われ、しかもその誰だかわかっていない人たち同士が普通に会話をしていることも、怖かったです。それぞれ何かが引き金になってネジが外れていき、吉井をきっかけに狂気を引き起こし、意志が変わっていく。環境によって変わっていくことの恐ろしさも感じました。監督の演出を見て、『こうやって観客の心理を操るんだな』と勉強になりました。すりガラスの使い方、扉の開け方、全部の演出が面白かった。特に面白かったのは、立ち位置の指定。普段、『この人は距離が近いな』とか『この姿勢で話しかけられるのは嫌だな』という距離感で芝居をすると、不気味さが生まれる。いい意味で違和感が生まれるという発見がありました。」
監督の演出と俳優の演技
黒沢監督: 「二人が会話をしていたら、どんな距離でどんな向きで話しているかを決めるのが僕の仕事です。10センチと5メートルでは、言い方も心も違ってくる。その距離は脚本には書いていませんし、僕も現場でやってみないとわからない。いろいろ面白がってやってみて、『こうなるんだ』というのは映画を作る楽しさでもあります。」
菅田将暉: 「そういう演出で、どんどん吉井が生きてきたんだと思います。面白いことに形が整ってくると心も整って、素直にその場にいられるし、素直にセリフが言えるんです。」
佐野役の奥平大兼
この作品のキャラクターでもう一人、黒沢監督が気にしていたのは、奥平大兼が演じた佐野だ。佐野は物語を転がす特殊な存在で、脚本を書いているときは気持ち良かったが、素性が掴めないから演じるのは難しい。
黒沢監督: 「まだ世間のイメージが固まっていない人のほうがいいだろうと、奥平くんにお願いした。お願いしてよかったですね。」
菅田将暉: 「怪物的な魅力があって、演じる人で変わる役ですよね。10代から20代前半の俳優がこの作品を見たら、『うわ、俺がやりたかった』って一番嫉妬する役だと思うし、俺も10年前に観たらそうだったと思う。100人いたら100通りのイメージがある。佐野がどういう人物なのか、吉井目線でもずっとわからなかった。監督と奥平くんとのセッションだと思うんですけど、不思議な落ち着きもあって、すごくよかったです。最初、『わかんなくなったら聞いていいですか』と言われていたので、たくさん聞いてくるな、と思っていたんですが、聞いてきたのは『拳銃の持ち方』だけでした。」
SNSとの付き合い方
作中ではSNSを通じて肥大する恨みや憎悪が描かれる。SNSとの付き合い方については、黒沢監督と菅田将暉がそれぞれ語る。
黒沢監督: 「ネットはほとんど見ないんです。最低限、情報を得るために見ることはありますが、自分のことなんかは絶対見ない。ネットを見て不安定になった知り合いが何人かいるんですが、『見なきゃ絶対気にならなかったはずなのになあ』って。」
菅田将暉: 「僕もあまり見ません。いっぱい動いて食べて寝て、目の前の人に真摯に接していたら、見る時間がなくなります。目の前や周りにちゃんとした人がいるかは大切ですよね。ネットが救いになる場合もあるんでしょうけど。」
映画「Cloud クラウド」への思い
菅田将暉: 「こういう映画が好きです。僕が普段よく見ている、バイオレンスな要素のあるサスペンススリラーでもあるので、楽しかったですね。」
黒沢監督: 「また菅田さんとご一緒できた際には、吉井とは逆の、人を陥れていくような役を演じてほしいですね。最も恐ろしい男にもとてもハマると思います。吉井という役柄のせいもあったかもしれませんが、菅田さんは現場で、存在感を抑えている印象があって。何げなく菅田さんのままでいる感じがとても気持ちよかったです。」
菅田将暉: 「いつも大体そんな感じですね(笑)。撮影現場の空気を俳優が占める割合は大きいと思うので、荒ぶる役の時は荒ぶったり、多少プレイをすることはあります。ただ、今回は、黒沢組の方たちがすごく楽しそうで。黒沢さんのイメージを具現化するために和気あいあいとアイデアを出していて、とても活気のある現場でした。『今も作っている時間だから、それを見てよう』みたいな感じで、見ているのがすごく楽しかったんです。」