「かぞかぞ」で描かれる家族の愛と河合優実の感動演技
初主演ドラマで見せた幸せの形
2022年に公開された「愛なのに」(城定秀夫監督)や「ちょっと思い出しただけ」(松居大悟監督)などの演技で、河合は存在感を示し、熱心な映画ファンや業界から注目を集めていた。特に、現在NHK総合で毎週火曜日午後10時から放送中の「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(通称「かぞかぞ」)での演技は、彼女の才能を存分に発揮している。この作品は、昨年NHK BSで放送された河合の連続ドラマ初主演作である。
物語の舞台は関西。主人公の岸本七実は、作家の岸田奈美の自身の家族をモデルにしている。彼女の家族は、ベンチャー企業家だった父が急逝し、母は突然車いすユーザーに、弟はダウン症、祖母はものわすれの症状が見られるという、文字にすると試練がふりかかる家族だ。しかし、この物語は不思議なほど悲壮感がない。確かに、岸本七実はそれぞれの試練に直面し、落ち込み、悩み、悲しみ、将来を憂える瞬間がある。しかし、一見不幸な出来事も、ユーモアで包み、幸せに変えてしまうのがこのドラマの魅力だ。
ドラマの特徴は、登場人物の過去と現在がフラッシュバックのように入り乱れ、空想と現実がごちゃ混ぜに見えるとっぴな演出にある。しかし、河合をはじめとする主要キャストの好演が、視聴者をスッと物語に入り込ませてくれる。特に、東京出身の河合は、見事な関西弁を披露し、方言の違和感を全く感じさせない。ドラマでは英語を披露するシーンもあるが、その発音も優れている。
しかし、方言や言語の技術的な部分は序の口。河合の演技は、家族や友達とのめんどくさい人間関係と、ちょっとこじらせた青春の自意識を映し出し、多くの人を心地よく温かい気持ちにさせる。彼女の演技は、観る者に深い共感を呼び起こし、家族の愛と絆の真髄を伝える。
「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」は、9月24日に最終回が放送される。今年地上波で初放送されたドラマの中で、この作品はベストの一つと言える。河合は、大ヒットアニメ映画「ルックバック」(押山清高監督)や、貧困、売春、薬物中毒といった現代社会の闇を描いた「あんのこと」(入江悠監督)など、今年だけでも多くの作品で活躍をみせている。しかし、彼女をまだよく知らない人には、「ナミビアの砂漠」と「かぞかぞ」の2作品を特にお勧めしたい。これらの作品は、彼女の演技の幅と深さを存分に感じさせる。
「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」は、家族の愛と絆の真髄を描いた心温まる作品だ。河合の演技は、観る者に深い共感を呼び起こし、家族の幸せの形を再考させる。このドラマは、多くの視聴者に心地よい温かさと希望を与えること間違いなしである。