『極悪女王』とゆりやんレトリィバァ:ダンプ松本役で見えた共通点とは

『極悪女王』とゆりやんレトリィバァ:ダンプ松本役で見えた共通点とは

『極悪女王』でダンプ松本役を演じたゆりやんレトリィバァ

1980年代に一世を風靡した女子プロレスの世界を描いたNetflixシリーズ『極悪女王』が大きな話題を呼んでいる。日本の「Netflix週間TOP10(シリーズ)」でも1位を獲得し、その人気は止まらない。

本作の主人公:ダンプ松本

本作の主人公は、悪役レスラーとして一時代を築いたダンプ松本。学生時代、内気な女子プロレスファンだった彼女は、自らオーディションを受けてプロレスの世界に足を踏み入れた。下積み生活で苦労を重ねながらも、悪役に転向したことで才能を開花させ、同期の長与千種とライオネス飛鳥のタッグチーム「クラッシュギャルズ」のライバルとして、女子プロレスの人気を牽引する存在となった。

『極悪女王』の魅力

『極悪女王』の見どころは、80年代の女子プロレスの世界を細部にわたるまで具現化していることだ。衣装やセットなども本格的に作り込まれており、華麗な技の応酬からルール無用の残虐プレーまで、当時のプロレスを忠実に再現している。撮影に臨むにあたって、レスラーを演じる女優陣は体を鍛えて、プロレスの練習を続けてきた。その甲斐あって、視聴者が本物のプロレスラーではないかと錯覚するような熱演を見せている。プロレスに興味がある人も、そうではない人も楽しめる密度の濃いエンタメ作品に仕上がっている。

ゆりやんレトリィバァの体当たり演技

女優陣の中でも、主役のダンプ松本を演じるゆりやんレトリィバァの意気込みは並々ならぬものがあった。撮影のために体重を大幅に増やし、筋肉も鍛え上げて、文字通り体当たりで希代のヒールを演じた。

80年代当時はインターネットもSNSもない時代だった。人々の情報源は限られており、テレビの影響力も今よりはるかに大きかった。そんな時代に、テレビ中継される試合で悪役レスラーとして非道の限りを尽くしていたダンプ松本は、日本中から恐れられる存在となった。当時はライバルのベビーフェイス(善玉レスラー)であるクラッシュギャルズがアイドル的な人気を博していたため、彼女たちの熱烈なファンからは敵視され、冷たい目を向けられていた。

ゆりやんレトリィバァの経歴

お笑いファンから見ると、ゆりやんレトリィバァという芸人には、この役がまさにぴったりだった。どちらかというと彼女もヒール扱いされることが多い芸人だからだ。実績だけを見れば、ゆりやんは抜群のセンスを持った優等生的な芸人である。吉本興業のお笑い養成所「NSC大阪」を首席で卒業し、芸歴わずか2年で日本一のピン芸人を決める『R-1グランプリ』(当時の表記は『R-1ぐらんぷり』)の決勝に進んだ。

そこからも勢いは止まらず、テレビの仕事もどんどん増えていき、2017年には『女芸人No.1決定戦 THE W』の初代王者となり、21年には『R-1』で悲願の優勝を果たした。現在はハリウッドスターを目指しており、年内には渡米してアメリカを拠点に活動する予定だという。

漂う嫌われている雰囲気

そんな輝かしい経歴の割に、ゆりやんの世間一般での評価はまだ十分とは言えない。率直に言うと、一定の割合の人には避けられているというか、嫌われている雰囲気を感じる。ゆりやんの芸風を、あえて乱暴に一言で言えば、「わけのわからないことを延々とやり続ける」だ。バラエティ番組で普通に話をするような場面でも、しつこくボケを挟み込んだりする。そういうところが一部の人にはわがままだとか面白くないなどと思われたりすることがあるようだ。

自分が言ったボケがウケなくても、ゆりやんは決して折れない。あえて空気を読まずに、さらにボケをたたみかけたりする。その感じが苦手な人は、ゆりやんが苦手なのだろう。一お笑いファンとしては、彼女のような才人がいまだにそのように思われている状況をずっともどかしく感じている。

パフォーマンスの真実

言うまでもないことだが、ゆりやんがわけのわからないボケを連発するのは、笑いのためにわざとやっているのだ。悪役レスラーが凶器攻撃をしたり竹刀を振り回したりするのと同様に、それは一種のパフォーマンスである。しかし、パフォーマンスがあまりにも真に迫っていると、それが演技であると理解されないことがある。悪役レスラーが本当に極悪非道な人間だと思われたり、「あえて空気を読まない芸人」が「空気を読めない芸人」だと思われたりする。

もちろん、当時のダンプ松本の境遇と、現在のゆりやんの境遇が同じだと言いたいわけではない。しかし、本質的な部分では両者にはどこか通じるものがある。ゆりやんがダンプ松本の役をあれほどリアルに演じることができたのは、まさにそのためではないか。

『極悪女王』の影響

世間では『極悪女王』をきっかけにして、昔のプロレスやダンプ松本を再評価する動きが進んでいる。それと合わせて、ゆりやんレトリィバァという芸人の才能もあらためて見直されることを願っている。(お笑い評論家・ラリー遠田)