JBA審判グループの新シーズンへの取り組みと日本バスケットボール界の進化

JBA審判グループの新シーズンへの取り組みと日本バスケットボール界の進化

JBA審判グループに聞く!新シーズンのルールと取り組み

1. JBA審判グループの取り組み

前田喜庸(日本バスケットボール協会 審判グループ GM兼審判委員長)
JBA審判グループのゼネラルマネージャー。Bリーグ初年度からレフェリーとして活動し、その後インストラクターとして後進の育成と評価を行ってきた。2023年度よりJBA審判委員長に就任。

上田篤拓(日本バスケットボール協会 審判グループ シニア・テクニカル・エキスパート)
bjリーグのプロレフェリー時代にNBAレフェリーを目指し、日本人として初めてNBAサマーリーグに招聘され、レフェリングを経験。現在はJBA審判グループ シニア・テクニカル・エキスパートとFIBAレフェリーインストラクターを務める。

2. パリ五輪での日本バスケットボール界の活躍

前田
男女日本代表チームの活躍はもちろんですが、日本のレフェリーも進化していることを皆さんに知っていただきたいです。JBA公認プロフェッショナルレフェリーの加藤誉樹がFIBAワールドカップに続き、パリ五輪でも重要な試合を担当しました。また、同じくJBA公認プロフェッショナルレフェリーの漆間大吾がインドネシアのプロリーグ(IBL)のプレーオフに招集され、レフェリーを務めています。これらの事実は、日本がFIBAの求めるメカニクスや判定基準を広めている国として世界で高い評価を受けている証です。

3. 新シーズンへの準備

上田
今シーズンはFIBAのルール変更点で、ファン・ブースターの皆さんが気になるような大きな変更点はありません。JBA審判グループでは8月31日と9月1日の2日間、トップリーグ担当レフェリー(JBA公認S級、A級レフェリー)やJBA公認T級、1級インストラクターと、判定技術や判定基準に関する取り組みや重点項目の確認を行い、開幕に向けて準備を進めています。

新しい取り組みとして、国際弁護士を講師に招き、試合中、感情が高ぶった相手との会話の組み立て方など、コミュニケーション方法について学ぶ時間を設けました。また、B1、B2、B3、Wリーグ(今シーズンからプレミアとフューチャーに分かれる)のヘッドコーチおよびアシスタントコーチと、毎年実施しているヘッドコーチミーティングを、全チームの練習スケジュールに配慮し、オンラインで3日間に分けて行い、ルールや判定基準について共通認識を深めています。外国籍ヘッドコーチにはチームの通訳に同席いただき、逐次通訳していただきました。

4. ヘッドコーチミーティングでのコミュニケーション

上田
レフェリーがどのようにアンスポーツマンライクファウル(UF)を判定しているのか、といった判定基準の確認や、Wリーグプレミアに初めて導入されるIRS(インスタントリプレイシステム=ビデオ判定)のルールと運用について説明を行い、コーチの皆さんと質疑応答を行いました。また、試合をスムーズに進めるための以下の2点を共有しました。

  1. タイムアウトからのゲームの再開やスムーズなゲーム進行

    • タイムアウトからの再開について、よりスムーズにスピードをもって再開できるようにお願いします。
    • 目的:メリハリのあるゲーム運営でお客様やメディアを通じて試合を楽しんでいる視聴者を待たせない。ゲームの平均試合時間をできる限り短くする。
  2. ベンチコントロール

    • ベンチで立つ行為を少なくすることで、ゲームを観るお客様の視野を邪魔しない。
    • 一人のコーチ以外に立ってゲームを指示している、または異論を唱えているなどについて、まずはヘッドコーチに一度伝え協力を求める。この時点でワーニング(注意)であることを伝える。ただし、必ずしもワーニングが必要ということではなく、過度な振る舞いなどには直接テクニカルファウルとなることもあります。
    • ワーニング後もベンチで立つ行為や、コーチ以外の方が立って指示したり、異論を唱えている場面があればテクニカルファウルとなります。
    • コーチ以外でも、プレーヤー、関係者の異論表現が続く場合などには、試合の商品価値を担保するためにテクニカルファウルなどの対応が必要な場合を判断してまいります。

5. プレーコーリング・ガイドラインの内容

上田
FIBAはルール変更点を直近では2024年5月、7月、8月に発表していますが、国内トップリーグで運用開始するのは、5月と7月に発表されたルール変更点です。8月発表の変更点はFIBA大会では10月から施行されますが、国内では次の適用開始のタイミングになります。変更点の適用開始は、トップリーグは2024-25シーズンと天皇杯、皇后杯2次ラウンド以降とし、その他のカテゴリー(主にアマチュア)については2025年4月の適用開始予定です。変更点と言っていますが、運用の中ですでに適用済の内容がほとんどです。ルールブックに条文や例として記載がなかったものを改めて記載したということですので、プレーコーリング・ガイドラインをチェックしていただければ映像とともに競技規則と判定基準を理解いただけると思います。変更点はJBAのウェブサイトで確認いただけます。

6. 重点確認項目

上田
アンスポーツマンライクファウル(UF)には4つの判定基準(クライテリア)があり、起きた現象のみで故意であるかどうかは考慮せずにクライテリアに該当するかどうかを一貫性を持って判定しています。以下に重点項目を説明します。

  1. UF(アンスポーツマンライクファウル)C1 について

    • ボールに対するプレーではなく、かつ、正当なバスケットボールのプレーとは認められないコンタクト。
    • オフボールのプレーヤーに対してや、コンタクトがあった体の部分(ポイント・オブ・コンタクト)が単にボールから離れていただけではC1は適用されず、そのプレーが正当なバスケットボールのプレーであったかどうかを含めて判断します。
    • 正当なバスケットボールのプレーとは認められない行為として、ボールにプレーせず、相手の身体の一部を掴み続ける、抱える、捕まえる、不必要に手・腕などで押す、肘・脚などを不必要に広げるなどのコンタクトを主に指しています。
  2. UF(アンスポーツマンライクファウル)C2 について

    • ハードファウル、エクセシブコンタクト。
    • UF/C2 基本的なコンセプト
      1. 「インパクト」が存在するか(過度に激しい、相手を負傷させてしまう、などのインパクト)。
      2. 「ワインドアップとインパクト」または、「インパクトとフォロースルー」が存在するか。
      3. エルボーの動きは水平方向(ホリゾンタル)。
      4. エルボーをスウィングすることによって相手の首から上にインパクトをもってコンタクトを起こした場合。
      5. By any Means(バイ・エニー・ミーンズ。どうせファウルになるのであればもっと大きくファウルをしようとするような行為)は継続してUF/C2。
      6. 通常の動きではなく、バスケットボールのプレーではないインパクト(映像で確認する場合)。
  3. UF(アンスポーツマンライクファウル)C3 について

    • オフェンスが進行する中で、その進行を妨げることを目的としたディフェンスによる必要のないコンタクト。
    • ディフェンスをしようとする努力をせず、オフェンスがボールを進めることを止めるだけを目的とした不必要なコンタクト。
    • リーガルガーディングポジションから正当にディフェンスをした結果のファウルは通常通りパーソナルファウルを適用する。

    このC3(クライテリア3)がルールの上で設定された背景としては、速攻やトランジションに対してディフェンスが安易にファウル(テイク)をすることで、ゲームの流れが途切れてしまうことを制限することを目的としてFIBA、NBAなど世界的に設定されました。一方で、FIBA本大会では以前まではこのC3として判定されていたものが、昨今、同じようなプレーであってもC3として判定されないケースがいくつか増えているように見えます。しかし、日本国内においては、今シーズンについては引き続きC3のケースについてはUFとして判定を続けていくことで、ゲームフローの確保をしてまいります。

7. その他共有事項

上田
ヘッドコーチミーティングでは、英語圏ではないヘッドコーチの通訳、及びコーチ兼通訳の方などが、ベンチで立つ行為について質問がありました。英語が母国語ではないコーチでも、FIBAのゲームと同様に、共通言語として英語でコミュニケーションしていきます。また通訳の役割が終わった後も、立ち続ける行為は、先に示したベンチコントロールに基づきテクニカルファウルの対象になります。

8. ファン・ブースターへのメッセージ

上田
皆さんの支えもあって、日本のバスケットボール界に大きな注目が集まっています。長いシーズンになりますが、Wリーグ、B1、B2、B3への応援をぜひよろしくお願いいたします。また、その試合を担当するレフェリーも一人の人間です。選手やコーチの起こしたリアクション、試合中継でのコメントなどに起因した、SNSを通じた選手・コーチ・レフェリーへの誹謗中傷が社会問題になっています。レフェリーやテーブルオフィシャルもバスケットボールには欠かせない一員です。より良いゲームを目指して、仕事とレフェリー活動という難しい両立に取り組んでいる、全国のレフェリーたちの存在も知っていただきたいと思います。今シーズンも我々の取り組みにご理解の程、宜しくお願い致します。

誹謗中傷対策と競技発展のためにレフェリーの環境改善が必要
レフェリーの中には、誹謗中傷の影響で、普段生活する地域でも、ファン・ブースターが集まる場所などを、なるべく避けて生活されるなど、すでに実生活に影響が出ている実情を知りました。日本のバスケットボール界が大きく成長する中で、このような状況に目を向けて、改善できることに取り組まないといけないとも感じました。

競技発展の面では、FIBAの本大会として扱われる試合において、他国に比べると日本人レフェリーが多く派遣されていることもあり、FIBAのインストラクターや審判長とのコミュニケーションを通じて、最新情報を吸収するチャンスが、日本にはある状況だと教えてもらいました。逆に他国においては、インストラクターもレフェリーも派遣できない国もあり、FIBAの最新情報がおりてこない国も多くあるようです。

ということは日本が強豪国になるためにも、魅力ある国内リーグを創っていくためにも、レフェリー環境の整備と環境改善が必然ということですね。今回のレポートで日本のバスケットボールがさらに発展するために、誹謗中傷対策と競技発展のためのレフェリーの環境改善が必要と分かりました。もっと多くのリソースが競技と競技を支える分野に向けられるように、ファン・ブースターも見守っていきましょう。(井口基史)