小児がん患者のためのレモネードスタンド:ドラッグラグとロス問題への挑戦

小児がん患者のためのレモネードスタンド:ドラッグラグとロス問題への挑戦

小児がん患者支援のためのレモネードスタンド

9月15日、川崎市多摩区のイベント会場で、小児がん患者を支援するためのレモネードスタンドが開催されました。この取り組みは、一般社団法人「Miraiall(ミライアル)かわさき」が主催し、区内に住む岸部知佐子さん(57)が中心となって実現しました。

岸部さんの長男、蹴(しゅう)さんは2021年5月、小児がんの一種である神経芽腫で亡くなりました。蹴さんはサッカーが大好きな12歳でした。彼の闘病は2016年2月に始まり、当時、欧米では生存率の向上が報告されていた「ジヌツキシマブ」が標準的な治療薬として使用されていました。しかし、日本ではこの薬が承認されておらず、承認申請に向けた臨床試験(治験)もすでに募集が締め切られていました。

日本での承認は、欧米よりも6年遅い2021年6月に実現しました。これは蹴さんが亡くなってから約1カ月後のことでした。この経験から、岸部さんはドラッグラグ(薬の承認が遅れる現象)とドラッグロス(日本では承認申請すらされない現象)の問題に取り組むことを決意しました。レモネードスタンドを通じて、これらの問題を訴え、小児がん患者への支援を呼びかける活動を始めました。

厚生労働省のデータによると、2023年3月時点で、欧米で承認されているが日本では未承認の薬は143品目あり、そのうち86品目がドラッグロスとなっています。特に、小児用の薬は32品目で、全体の4割近くを占めています。

保育園や小学校の同級生の協力

この日のレモネードスタンドには、蹴さんの保育園や小学校の同級生5人が手伝いに駆けつけました。高校1年の井上竜之介さん(16)は、小学生の頃によく蹴さんの家に遊びに行き、ゲームや卓球を楽しんでいたと振り返ります。蹴さんが亡くなる2カ月前にあった小学校の卒業式では、車いすに乗った蹴さんに「ありがとう。これからもよろしく」と声をかけたそうです。

レモネードスタンドでは、蹴さんの闘病やドラッグラグ・ロスについてまとめたチラシを配布しました。井上さんは、「僕の友達の岸部蹴くんは、中学1年のときに小児がんで亡くなってしまった」と声をかけ、チラシの説明をしました。

レモネードを購入してくれた人には、レモンのシールをレモンの木に貼ってもらうという趣向も用意されました。午前11時から販売を始め、午後5時すぎには約180杯を完売。レモンの木は実でいっぱいになり、多くの人々がこの活動に共感し、支援を示しました。

今後の展望

岸部さんは、このレモネードスタンドを通じて、小児がん患者への支援とドラッグラグ・ロスの問題について、より多くの人々に理解と関心を持ってもらうことを目指しています。今後も、同様のイベントや啓発活動を続けていく予定です。

小児がん患者の治療環境の改善は、社会全体で取り組むべき重要な課題です。岸部さんの活動が、この問題の解決に向けた一歩となることを願っています。