残留応力場の破壊シミュレーション:北極の氷と断層の破壊予測へ
グリーンランドの海に流入する氷河末端の破壊シミュレーションが、氷の破壊過程の予測にも応用される可能性があることが明らかになった。これは、海洋研究開発機構(JAMSTEC)数理科学・先端技術研究開発センター(MAT)の廣部紗也子研究員が、残留応力を持つ材料のシミュレーションに世界で初めて成功した成果によるものだ。
残留応力は、素材内部に存在する応力で、スマートフォンの画面に使われる化学強化ガラスが落とされると割れてしまう原因の一つである。廣部研究員は、粒子離散化有限要素法(PDS-FEM)という手法を用いて、残留応力場の破壊過程を再現する数値解析に成功した。この手法は、以前から知られていたが、残留応力場の数値解析は非常に難しく、これまで成功例がなかった。
廣部研究員は、残留応力場の破壊をシミュレーションすることで、強化ガラスだけでなく、断層の破壊や北極や南極の氷の破壊過程の予測にも応用できると考えている。特に、地震の破壊過程において、残留応力の分布や断層を構成する材料の強度が分かれば、どの程度の破壊が生じるかを予測できる可能性がある。
また、廣部研究員は、南極や北極の氷山の崩壊現象にも興味を示している。氷山が崩れる際の柱状の落下は、氷の性質や結晶構造の複雑さから、モデル化が難しいとされている。しかし、自然現象を数学の言葉で説明することに魅力を感じている廣部研究員は、氷の破壊過程の数値解析にも挑戦したいと考えている。