トム・ワトソンのゴルフへの純粋な情熱：ビジネスを拒否し、プレーだけを追求した男の物語

1982年の全英オープンで新帝王と呼ばれ、一時代を築いたトム・ワトソンに関するこのレポートは2010年に執筆された。2009年、59歳のワトソンは6度目の全英オープン優勝を目指し、プレーオフに進出した。結果的には敗れたものの、その活躍は世界中から賞賛の声が寄せられた。

60歳のワトソンの全体像に迫るこのレポートは、ゴルフへの純粋な心と持続する志について語られている。40年にわたって米ツアーを取材してきた岩田禎夫氏（2016年死去）は、「ワトソンがスウィングも含めて、長続きする理由の一つに、目的を決めたら脇目もふらずに純粋に一つの道を進むという性格がある」と述べている。

ワトソンは1998年に前妻のリンダと離婚した。リンダは口八丁手八丁、てきぱきとした女性で、ワトソンとは性格が正反対だった。ワトソンがツアーで成功し、ビジネスチャンスが広がった頃、リンダの兄チャック・ルービンがマネジャーになったことで、2人の関係は悪化した。リンダはユダヤ系で、ビジネス的成功を目指していたが、ワトソンはそれを拒否し、ゴルフをプレーするだけの道を選んだ。

離婚に至った際、ワトソンは全財産をリンダに渡し、故郷のカンサスシティの郊外の小さな農場に引っ込んだ。岩田氏は、「カネに恋々としていない。純粋にゴルファーとしての道を歩きたいという思いが、今のゴルファーとしての長寿につながっている」と語っている。

現在の妻はヒラリーで、控えめな性格でリンダとは全く正反対の女性だという。ワトソンがいかにピュアにゴルフだけを見つめているかを示すエピソードとして、ゴルフ場設計の数が少ないことが挙げられる。その数少ない作品の一つが、米国モントレー半島にあるスパニッシュベイだ。これはスタンフォード大学の先輩で、当時のUSGA（米国ゴルフ協会）会長でもあったサンディ・ティータムの依頼で引き受けたものだ。

設計にあたっては、有名設計家ロバート・T・ジョーンズJr.に実際の土木工事を依頼した。この土地は環境規制が厳しく、例えば盛土してマウンドをつくる際には、その場所の土を削ることはできず、他の土地から持ってくる必要があった。しかし、ワトソンは経費や時間の問題を一切考慮せず、自分が描いた設計通りのことを要求した。ジョーンズは「注文が厳しすぎる。ビジネスにならないよ」と苦笑したという。

妥協を許さず、完璧を貫こうとするワトソンの姿が、このエピソードからも伺える。