「青木宣親:スワローズの伝説が語る、野球への情熱とチームへの愛」
現役引退を発表した東京ヤクルトスワローズの青木宣親外野手が10月2日に引退試合を迎える。MLBでの6年間を含むプロ21年間で、積み上げたヒットは歴代5位の2728本(9月30日現在)。
青木選手の引退に寄せ、熱烈なスワローズファンであるミュージシャンで作家の尾崎世界観がその思いを語った。9月10日に共著の『青木世界観』(文藝春秋)を上梓した尾崎にとって、青木選手はどのような存在なのか。
尾崎は青木選手の引退を「発表の数日前に連絡をいただきました。ライブで地方に行っていて、空港に着いたタイミングで電話が来て……。この時期なので、嫌な予感はしたんですが。連絡いただけて嬉しかったけれど、やっぱり一番は寂しい、残念という気持ちです」と受け止めた。
青木選手は引退を発表した後も、出場選手登録されて以降はヒットを重ねている。尾崎は「先日のDeNA戦でもウェンデルケン投手のインコースのもの凄いストレートを打っていました。ビジター球場でも凄い歓声で迎えられ、各球団の監督や選手からリスペクトされているのが伝わってくる。本当に凄い選手だと改めて感じます」と語った。
『青木世界観』の第9章のテーマは「引退」。年齢を重ねることや、青木選手が考える引き際について率直な思いを話している。尾崎は「取材はだいぶ前で、当時は自分もまだ、遠いところにある出来事として聞いていました。あの時、青木さんはどういう思いだったのか……心は決めていなくても、言葉にすることで気持ちの輪郭がよりはっきりしたのかもしれない」と振り返る。
青木選手の存在は尾崎の中でどのように変わっていったのか。本の冒頭には2005年から2011年のスワローズ時代について「自分が積極的に応援するタイプの選手ではなかった。(中略)正確に言えば応援すらさせてもらえなかった」と書かれている。尾崎は「突然出てきて、あっという間に中心選手になって、圧倒的な成績を残していたという感じです。小学生の頃からヤクルトを見続けてきて、そんな選手は見たことがなかった。まるで助っ人外国人選手を見ているようでした」と語る。
メジャーリーグを経て、2018年にスワローズに復帰した後は「まずヤクルトに帰ってきてくれたことに驚きました。朝の5時に友達から連絡が来て、ニュースを見た時の喜びは今も忘れられないです。特に前シーズンが96敗した年だったので。そこからまた、当たり前のように成績を残して、その上でプレースタイルも大きく変わっていた。まるで別人になっていて、すぐに強く惹きつけられました」と語った。
青木選手の「喜怒哀楽の全てが、自分のためというより、チームのためにある」という印象についても触れ、「メジャーに行く前は自分のための感情すら押し殺しているイメージだったので」と語った。
『青木世界観』は「チャンス」「才能」「技術」など9章あり、各テーマを通して青木選手の「世界観」を窺い知ることができる。尾崎は「タイトルだけは最初から決まっていました。これは青木さんが決めたものなんです。ある日、『青木世界観がいいと思う!』って」と語った。
尾崎が最も印象に残っている部分は「全9章を通して、どんな角度から話を聞いても、まったく同じところにたどり着くのが印象的です。それだけプロ野球選手は1つのところに向かって考え、行動し、積み重ねている。あらためてなぜ自分がプロ野球を好きなのか、青木さんが好きなのかが分かりました」と語った。
青木選手自身も高校時代は「とてもプロ野球を目指せるような選手ではなかった」と言っており、高校の修学旅行で部屋を抜け出して……というエピソードも紹介されている。尾崎は「その頃の青木さんと、今の青木さんが繋がる感じがしないんですが、あるところで急に変わる。凄いところまで行く人はそういう“向こう側に選ばれる”瞬間があるのかもしれない」と語った。
青木選手は引退する理由の一つに「チームのため」と挙げており、尾崎は「チームが変わらなきゃダメだ。そんな風に考えて辞められる選手は本当に一握りだと思います」と語った。
『青木世界観』は青木選手と尾崎世界観の共著で、9つのテーマについて深く語り合った唯一無二の対話集として好評発売中である。