TDKの革新的Active-PIC by LN:4K映像対応の高速レーザ制御デバイスがスマートグラスの未来を変える
TDKは2024年10月9日、LiNbO3(ニオブ酸リチウム)薄膜を用いたスマートグラス用可視光フルカラーレーザー制御デバイス「Active-PIC by LN(Active Photo Integrated Circuit by LiNbO3)」を発表した。このデバイスは従来比で10倍高速にレーザーを制御できるため、4K(2160p)の高解像度映像にも対応できるという。TDKは「CEATEC 2024」(2024年10月15~18日、幕張メッセ)で同デバイスのデモンストレーションを紹介する予定だ。
TDKはこれまで、QDレーザと共同でAR(拡張現実)/VR(仮想現実)スマートグラス向け技術の研究開発を行ってきた。2022年10月にはQDレーザが有するレーザーの網膜直接投影技術を活用したフルカラーレーザーモジュールを共同開発し、「CEATEC 2022」などの展示会で紹介していた。網膜直接投影技術では、スマートグラスをモニターとして表示した映像を見るのではなく、網膜上に映像を投影するため、目のピント調節が不要だ。これにより、近視/遠視/老眼といった視力の個人差が映像の見やすさに影響せず、画面酔いやピント調節疲れがないといったメリットがある。
今回発表したActive-PIC by LNについても、TDKとQDレーザは網膜直接投影技術と組み合わせた実証を行い、同デバイスが映像デバイスとして機能することを確認した。従来の技術ではレーザーの切り替え速度は1GHzが限界で、解像度としてはフルHD(1080p)程度にとどまっていた。しかし、Active-PIC by LNは光通信技術などに用いられるLiNbO3をRGB可視光の光学導波路に適用し、さらに従来はレーザー素子を電流制御していたものを光学導波路を電圧制御するように変更したことで、切り替え速度を従来比10倍の10GHz以上まで高めた。
同デバイスの切り替え速度は4K映像にも対応可能で、電圧制御によってRGB各色の出力の強さを細かく制御するため、中間色も表現できる。消費電力も従来の4分の1程度に削減できるという。
Active-PIC by LNの製造方法にも特徴がある。一般的にLiNbO3を用いたデバイスの製造はバルク結晶を用いて行われているが、バルク結晶の大きさに限界があるため大口径化が難しく、民生機器などの大量生産には適さない。一方、Active-PIC by LNは量産を意識し、スパッタリングでLiNbO3薄膜を形成している。単結晶を用いないため大口径化しやすく、大量生産が可能だ。さらに、TDKが強みとする薄膜作成技術によってスパッタ膜の結晶性の課題も克服した。
TDKは今後、2025年以降にActive-PIC by LNのサンプル提供を開始し、3~5年後をめどに量産化することを目指している。その際は4K映像の投影を実現する計画だ。また、大量生産が可能なスパッタリング方式でLiNbO3薄膜を作成した実績は他分野にも応用可能で、データセンターでの高速光通信や生成AI(人工知能)関連デバイスにおける高速光配線など、スケーラビリティが重要な分野への展開も考えられる。