磯村勇斗、憑依を超えた俯瞰の力で描く『若き見知らぬ者たち』の風間彩人
映画『若き見知らぬ者たち』が10月11日に公開される。本作で風間彩人を演じる磯村勇斗に話を聞いた。
磯村勇斗は、社会の暗部や人々の苦悩を描いた作品に多く出演している。『月』では連続殺傷事件を起こした青年の闇を体現し、『ビリーバーズ』ではカルト的集団の信者を演じ、『渇水』では行政の限界を見つめ、『波紋』では有害な男性性に切り込んだ。また、高齢者の自死を支援する制度を描いた『PLAN 75』や、己の欲望と生きづらさをテーマにした『正欲』など、彼が選ぶ物語には確固たる一本線が存在する。
『若き見知らぬ者们』は内山拓也監督の商業長編デビュー作で、社会の片隅で限界間近の生活を送る家族を軸に、骨太なメッセージを届ける意欲作だ。磯村が演じた風間彩人は、昼間は工事現場、夜は両親が開いたカラオケバーで働きながら亡き父の借金返済と母の介護に追われる青年。総合格闘技の選手として成功を目指す弟・壮平(福山翔大)と恋人の日向(岸井ゆきの)と身を寄せ合いながら生きていた彩人の日常は、不条理な暴力によって突然奪われてしまう。
磯村は、彩人を演じるにあたり、「彩人は身体にずっと錘を付けて生きているような人だと感じました。撮影前から食事制限を行い、睡眠の質をあえて下げることによって調整していきました」と語る。心身共に負荷がかかる撮影期間中も、その覚悟は並大抵のものではなかった。
磯村は、「準備をしたものと比べて芝居における‘奥行き’が圧倒的に違うはず。役者は脚本という2次元を3次元にしていく者だと考えています。準備をすることで、見えなかったものが本番で生まれやすくなる土壌が育つような気がします」と語る。
磯村のキャリアは順風満帆に見えるが、彼自身は「芝居におけるリアリティやリアリズムとは何だ?と日々悩んでいます。映画はフィクションなので、リアルを追求しすぎてもダメですが、真実味を感じられなければ心には響きません。ニュアンスが乗っているほうがシーンが生きることもありますから、とても難しいです」と語る。
磯村は、「憑依も大切ですが、それ以上に俯瞰を大事にしています。どれだけ入り込んでもいいけれど、絶対に一人客観的に見る自分を置いておきたいという考えを持っています。役者をやっていくうえで‘引いて見る力’は必要なものだと思います」と語る。
磯村勇斗は1992年、静岡県生まれ。2015年ドラマ『仮面ライダーゴースト』で仮面ライダーネクロム・アラン役を演じ注目を集めた。その後、連続テレビ小説『ひよっこ』でヒロインの夫となる見習いコック役を演じ脚光を浴びた。映画作品では『ヤクザと家族The Family』、『劇場版 きのう何食べた?』で第45回日本アカデミー新人俳優賞を受賞。映画「月」で第47回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。出演作には、映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 –運命–』、『最後まで行く』、『波紋』、『渇水』、Netflix『今際の国のアリス シーズン2』がある。
映画『若き見知らぬ者たち』は2024年10月11日(金)に公開される。監督・脚本は内山拓也、出演は磯村勇斗、岸井ゆきの、福山翔大、染谷将太、ほか。