磯村勇斗×岸井ゆきの×内山拓也「若者の声を届ける」映画「若き見知らぬ者たち」の舞台裏
内山拓也監督の新作映画「若き見知らぬ者たち」が注目を集めている。この作品は、若者の閉塞感や社会の理不尽な暴力にさらされる若者たちの叫びを描いている。主演の磯村勇斗さんと岸井ゆきのさんが、内山監督との鼎談に参加し、作品の背景や思いを語った。
磯村勇斗さんが演じる主人公の彩人は、難病を患う母の介護と亡き父の借金返済に追われ、自分の夢を諦めている。彩人の唯一の支えは、総合格闘家としてタイトル戦を目前に控える弟の壮平(福山翔大)と恋人の日向(岸井ゆきの)だ。彩人は、病状が悪化する母に振り回され、昼夜を問わず休むことなく介護に追われている。弟の将来のために、荒れた台所で一人声を殺して泣く彩人の叫びは、周囲に届かない。さらに理不尽な暴力が彩人を襲うが、この衝撃的な展開は内山監督が友人から聞いた実話を基にしている。
内山監督は、脚本を2016年から書き始め、前作「佐々木、イン、マイマイン」の制作を終えた際、個人的な思いとして、見過ごされがちな人々の感情を描くことを決意した。彼は、最も個人的なことを描くことで、グローバルに同じ感情を分かち合えると考えている。
磯村勇斗さんは、脚本を読んだ際、主人公の彩人が物語の半ばで消え、弟の壮平がその思いを引き継いでいく構成に感銘を受けた。物語の中で生きている全員が誰一人欠けることなくそれぞれの人生を生きているという内山監督の作家性に惹かれたという。
岸井ゆきのさんは、自身が演じる日向がさまざまなことを受け止めすぎて、常に何かを「持ち続けている」人だと感じた。彼女は、感情を表に出さずに耐えている役が難しかったが、「とにかくやりたい」という思いで挑んだ。
内山監督は、可視化されていないものは世の中に非常に多くあると語る。壁を一つ隔てた家の中や人の心の中がどうなっているのか、本当のところは誰にもわからない。彼は、こぼれ落ちていくものをすくい取ろうという思いで作品を制作した。また、社会的な事情や経済的な事情が一つあるだけで、時間すらも平等でなくなってしまうという感覚を物語に内包させた。
磯村勇斗さんは、彩人はもはやどうしようもなさややるせなさを感じてはいないと語る。彩人は、自分の口から声を出すことすらできないほど、置かれた状況が精一杯だ。彩人として存在するのがつらい時もあったという。
岸井ゆきのさんは、日向も感情はあるはずなのにそれを表に出さずに耐えていると感じた。我慢をしているのがつらくて、演じながら何度も叫び出したくなったという。
内山監督は、是枝裕和監督らとともに日本映画界の未来を考え、映画界の共助制度を目的とする「action4cinema/日本版CNC設立を求める会」の運営メンバーに名を連ねている。また、本作はフランス、韓国、香港の出資を受け、各国が自国での配給権を持ち、最終的な音の調整はフランスで行われた。
内山監督は、日本のエンターテインメント業界が経済活動の内の約10%しか占めていないと指摘し、産業として衰退する可能性があると危惧している。彼は、クリエイティブの力で国内情勢や経済活動を豊かにできると考え、国際的なコミュニケーションを含めてトライした。磯村勇斗さんも、日本国内だけで作品をまわすのではなく、海外に出していかないと産業として衰退すると考えている。
内山監督、磯村さん、岸井さんはともに1992年生まれ。同世代として社会への思いや感覚の共有はあったのだろうか?内山監督は、「若さ」や世代に括られることを望んでいないと語る。世代の視点がジェネレーションギャップを生み、格差や溝を助長してしまう可能性があると考えている。磯村さんも、世代などは関係なく、合う人とは合うし、世代に関係なく一緒に歩むことはできると述べた。
磯村さんは、近年、実事件をもとにした映画「月」や、他者に理解されにくい欲望を描いた「正欲」など、現代社会を映す作品に意欲的に出演している。彼は、日本が抱える問題や人々の苦しい思いを役者が発信することは難しいと語る。問題を知らせたり気づかせたりするためには、映画やドラマ、舞台などのエンターテインメントのフィルターを通すことが必要だと考えている。彼は、より多くの層の人たちに映画が届くことで、観た人が何か一つ声を上げるきっかけになることを望んでいる。
内山監督は、この物語が観客にどのように受け止められるかは観客に委ねられる部分もあると語る。しかし、何かが一つでも映画から表出され、観客の心に結びついてくれることを願っている。岸井さんは、この作品が観た人が他人事ではなく感じ、その人自身の人生に何かが作用することを望んでいる。