「SHOGUN 将軍」の成功、ハワイ在住俳優・平岳大が語る日本人俳優の海外進出の重要性

「SHOGUN 将軍」の成功、ハワイ在住俳優・平岳大が語る日本人俳優の海外進出の重要性

「SHOGUN」という言葉が44年ぶりに脚光を浴びている。1980年に三船敏郎、島田陽子主演で放送された5夜連続ドラマ「将軍 SHŌGUN」は、全米視聴率36.9パーセントという記録を打ち立て、島田陽子は「国際女優」として注目を集めた。このドラマは、細川ガラシャをモデルにしたマリコ役を演じた島田陽子の活躍により、日本料理やサムライ、切腹などの日本の文化が米国に広く知られるきっかけとなった。

44年後の2022年、ディズニープラスで配信されたリメイク版「SHOGUN 将軍」が、米国の権威あるエミー賞で史上最多となる18部門を受賞し、世界的な話題となった。この作品は、日本の時代劇が世界に受け入れられたことを示す評価を受け、主演の真田広之はプロデューサーとしても大きな役割を果たした。

真田広之は、エミー賞授賞式のスピーチで、「これまで時代劇を継承して支えてきてくださった全ての方々、そして監督や諸先生方に心より御礼申し上げます。あなた方から受け継いだ情熱と夢は、海を渡り、国境を越えました」と、この作品の時代劇としての意義を語った。

この作品の成功により、日本の文化が再び世界に浸透するという報道もあった。しかし、現在では「おもてなし」や「おかげさまで」が世界に知られる時代であり、日本文化の世界浸透を喜ぶ時ではないという意見もあった。それでも、俳優の平岳大は、「今回の『SHOGUN 将軍』のエミー賞での快挙は、僕は何よりも俳優への影響が大きいと思っています。これを機に日本人俳優の海外での活躍の場が増え、また日本をテーマにした作品がもっと増えることが期待できる」と語っている。

平岳大は、リメイク版「SHOGUN 将軍」で重要な役回りの石堂和成(史実では石田三成がモデル)を演じた。真田広之が演じる吉井虎永(徳川家康がモデル)とのライバル関係が、劇中の大きな見どころとなっている。平は、エミー賞で助演男優賞にノミネートされたが、惜しくも受賞は逃している。

平は、米国ハワイ在住で、奥様と6歳の娘と一緒に暮らしている。ハリウッド製作などの海外作品への出演を続けている平は、エミー賞受賞について次のように語る。

「ほぼ全編を日本語で演じ、派手なチャンバラや忍術、拳法もありません。突飛な衣装や豪華なセットもなく、戦国武将たちの腹の探り合いが続く、どちらかと言うと静かなドラマです。言語の多様化に関しては、韓国の『イカゲーム』などが地ならしをしてくれたかもしれませんが、ほぼ日本語で通した作品が米国エミー賞の本流で戦い勝利したのは、すごく画期的な出来事だと思います」

平は、元々はサッカー留学で米国へ渡り、ブラウン大学理学部応用数学科に進学。その後コロンビア大学大学院に進んだが、大学院を中退して日本に帰国後、外資系企業に就職。27歳で思いがけず役者の道へ進んだ。平の父は俳優の平幹二朗、母は女優の佐久間良子で、役者としてはサラブレッドとも言えるが、元々は俳優志望ではなく、サッカー留学がきっかけだった。

平は、約20年の日本での俳優生活で、出演料はほとんど上がらなかったと語る。海外のエンターテインメント業界の常識とはかけ離れていた日本の芸能界に疑問を感じ、2019年に日本の所属事務所を辞め、海外のエージェントと契約。居住地もハワイに移した。

「移住した途端にコロナ禍に見舞われ、一切の仕事がなくなり、収入はゼロ。家族を連れてきて、さすがにこれはヤバいぞと冷や汗の日々でした。久々にいただけた仕事が、Huluがローマで撮影した『THE SWARM(ザ・スウォーム)』。衣装を着てメイクし、撮影現場に立った時の嬉しさと言ったら。涙が出そうでしたよ」

「SHOGUN 将軍」の撮影は、2021年からバンクーバーで始まった。日本語で演技する作品なのに、スタッフのほとんどが日本語を理解していないという状況で、平は役者としての基本に立ち返ることができたと語る。

「セリフの切れ目で場面を切り替えるのに撮影スタッフが苦労していました。一方で俳優は、セリフ回しでスタッフにアピールすることができない。そこで、気付きました。僕はこれまで誰に向かって演技してきたのかと。制作陣に演技を見せるのではない、とにかく役になりきって相手役に向けて演技する。そんな基本に立ち戻れました」

平は、真田広之の存在が大きかったと語る。企画の段階で何度も潰れかけた作品を、真田のプロデューサーとしての力量で完成させたという。

「元は英語の台本を日本語に訳し、その際に日本人の専門家が時代考証をするのですが、それでも不自然な言い回しが出てきます。日本人の感覚でそれを修正できる真田さんというプロデューサーがいたのは、大きかった」

平は、作品の成功により、スタッフの間でも日本という異文化をリスペクトする空気が生まれたと語る。

「撮影半ばを過ぎたあたり、プロデューサーのジャスティン・マークスが、自身が編集したトレーラー(予告編)を関係者に観せる席で、10分くらい日本語でスピーチしたのです。これはハリウッドのクリエーターとしてはあり得ないこと。日本とハリウッドが文化的に互いに対等になれたのかなと思えた瞬間でした」

エミー賞授賞式のパーティーでは、女優のナオミ・ワッツが平のもとに寄ってきて、「あなたの演技がとても良かった」と言葉をかけたという。平はそのときの喜びを次のように語る。

「え? 本当に僕のこと? と疑ってしまったくらい。それくらい僕が演じた石堂には、目立つアクションシーンもないし、チャンバラも腹切りもない。ある意味で地味かもしれない演技が、彼女には響いていたのです。それは役者としてすごく嬉しいことだったし、これでいいのだと吹っ切れた瞬間でした」

平は、ハワイにいるからこそ俳優活動ができると実感している。日本に近く、治安の面でも安心なハワイだからこそ、奥さんと娘を置いて長期の撮影に参加できているという。

「撮影で多くの地を巡りましたが、ハワイ以上の場所はなかった。間違いなく、僕に役者としてのパワーをくれる場所はハワイであり、ハワイにいる家族です。ハワイの朝陽を眺めるのが大好きで、起きたら自宅マンションの庭に出て、朝陽がのぼるのを観ている時間は最高の癒しです」

平は、俳優としてハワイに住んでいると、撮影の合間の雑談でハワイに住んでいるという話題が盛り上がるという。

「撮影って、待機時間がけっこう長い。出演者やスタッフとすぐに盛り上がれる話題があるのはけっこう大事なのです。その点でもハワイというキーワードはかなり使えますね」

ただ、気掛かりもあるという。

「唯一の気掛かりは、まるで遠洋漁業に出ている夫を持ったような生活になっている奥さんと娘。撮影で何カ月も家を空けることが多いいま、1人で娘を育ててくれている奥さんには、感謝しかないです。『SHOGUN 将軍』という作品の成功は、全出演者とスタッフの家族たちの協力の賜物ですよ。それは強く思います」

44年前に「国際女優」という言葉を生み、日本の文化を世界に知らしめる契機となった「将軍 SHŌGUN」。エンタメの力が、日本と世界の接点を変えていったわけだが、今回のリメイク版の「SHOGUN 将軍」も、「真実の日本」を世界に広める契機となった気がする。これまでのトンデモ日本ではなく、正しい日本像を海外に確立する担い手となるのが、実力ある日本人俳優の存在。世代によらず、その数がもっと増えてほしいというのが、平の想いだ。そんな日本人俳優たちのなかから、また新たな「将軍」が生まれてくるに違いない。