北海道の水族館館長が語る、水の世界への情熱と挑戦

北海道の水族館館長が語る、水の世界への情熱と挑戦

北海道にいる生粋の「水族館好き」の館長、山内創さんは、学生時代に友達3人と12日間かけて東日本の太平洋沿岸の水族館を車中泊しながら旅した経験を持つ。現在は、日本初の滝つぼ水槽や世界初の冬に凍る四季の水槽で人気の「北の大地の水族館」の館長を務めている。

山内さんは、子どもの頃から生き物が好きで、犬やハムスター、ウサギなどを飼っていた。家の前には空き地があり、クワガタやカブトムシを捕まえていた。小学校3~4年生の頃から魚や夏祭りの金魚を飼育し、5年生頃からは自室に水槽を並べて熱帯魚を飼育していた。

水の中の生物に興味が絞られた理由について、山内さんは「水の中の生物は、陸上の生物とは違い、人間がわからない場所で過ごしている。身近な異世界の生物のような感じがして、それが面白かった」と話す。

専門学校卒業後、北里大学海洋生命科学部で環境教育を学んだ山内さんは、名古屋コミュニケーションアート専門学校水族館・アクアリスト専攻(現名古屋ECO動物海洋専門学校)を卒業し、「北の大地の水族館」の館長になった。しかし、館長になることは希望ではなく、「縁」だったと苦笑いする。

山内さんは、水族館に来る多くの客が「生き物自体にはそんなに興味がないのかもしれない」と感じている。特に、同館の誇る北海道ならではの巨大天然魚「イトウ」の水槽前を通った女性客の反応が印象的だった。「わぁ、でっかい! すごーい、なにコレ~!」と言いながら、イトウの魚名板を見ずに通り過ぎる客が多かった。

そこで山内館長とスタッフたちは、おもしろい解説や館内で客と直接話す機会を増やすなど、さまざまな工夫を凝らしている。また、館内の「館長が出てくるボタン」を設置し、客が館長と直接話せる機会を設けている。

山内さんは、エゾサンショウウオというイモリが濡れているような生き物が「気持ち悪い」と言われることが多かったが、スタッフが「かわいかったらボタンを押してね」や「かわいいでしょ♪」とPOPを付けることで、客の反応が「かわいいね」に変わったという。

山内さんは、水族館館長として若いスタッフとも向き合っている。魚が好きと水族館が好きは、必ずしも水族館で働けるとは限らない。魚が好きだとペット的な感覚になりがちだが、水族館の魚は決してペットではない。野生の魚の美しさと比べると、水族館の魚は少し輝きが異なる。そのため、魚が好きだからといって水族館で働けるわけではない。

飼育員として働くと、水温を計ったり、水質を検査したり、エサをやったり、水槽のコケを掃除したりと、地味でハードな仕事が多い。しかし、その現実を前にしても、「好きな仕事」として水族館で働き続けるには、目的や伝えるべきことを自分ごととして捉えられることが大切だ。

山内さんは、「私は特に仕事ができるわけじゃないです。だからこそ、好きを仕事にしたんです」と話す。趣味の延長線上に仕事があるという感覚が、より一層強くなっているという。山内さんの信念と情熱が、館長としての素晴らしい仕事ぶりを支えている。