『ピアニストを待ちながら』井之脇海が語る、村上春樹ライブラリーでの不条理な世界【Actor’s Interview Vol.44】
『ピアニストを待ちながら』は、世界的な建築家の隈研吾が設計した村上春樹ライブラリー(早稲田大学国際文学館)を舞台に、若者たちの不条理な世界を描いた作品だ。監督は今年デビュー20周年を迎える七里圭で、主演は井之脇海が務めた。
物語は、真夜中の図書館で目を覚ました瞬介(井之脇海)が、なぜか外に出られず、旧友の行人(大友一生)と貴織(木竜麻生)と再会するところから始まる。3人は学生時代に上演できなかった芝居「ピアニストを待ちながら」の稽古を始める。この作品は、村上春樹ライブラリーの開館記念映画として製作された短編を基に、約1時間の劇場公開版として完成された。
井之脇海は、脚本を読んだ当初は難解だと感じたが、何度も読み返すことで、閉ざされた空間にいる人々の葛藤や、SNSが当たり前の世の中で急にそれを取り上げられた人々の居心地の悪さなどが感じられるようになったと語る。監督の七里圭は、役者に新しいアイデアを見つけさせようとする方針で、リハーサルを重ね、皆で話し合いながら答えを探していった。
村上春樹ライブラリーの独特な空間は、作品の世界観に深く寄与している。井之脇は、この場所が村上春樹の世界を漂わせていると感じ、その空間が撮影中常に影響を与えていたと話す。七里監督は、映像作家としての手腕を発揮し、建物の使い方や光と影にこだわった。建物が一つの登場人物として描かれ、影に意味を持たせて人物像を膨らませている。
瞬介は、物腰の柔らかさや佇まいが村上作品に登場しそうな感じがあり、井之脇自身も村上作品のファンである。瞬介は、受け入れざるを得ない状況に置かれ、心も迷子になっているが、最終的には自分から動き出していく。
撮影は2週間かかったが、リハーサルも多かったため、61分の映画にしてはかなり時間を掛けた。基本は順撮りだったが、七里監督のこだわりで、撮影途中で再撮影することもあった。コロナ禍でこの場所が貸し切りだったため、贅沢な撮影環境だったと井之脇は振り返る。
カット割りは決まっていたが、シーンの最初から最後まで一通りやる感じで、後半の長いシーンはブロックごとに分けられた。井之脇は、監督としての視点も持ちつつ、役者としての役割に徹した。45分版と61分版では印象が変わり、61分版では人物の機微を丁寧に描き、音楽にもこだわった。
井之脇は、影響を受けた監督として、レオス・カラックスを挙げ、その世界観に憧れて映画の世界に入ったと語る。カラックスに会った際には感動のあまり泣いてしまったというエピソードも明かした。
『ピアニストを待ちながら』は10月12日(土)からシアター・イメージフォーラム他で全国順次公開される。