「秋の敗退から夏の栄冠へ」掛川西高校がフィロソフィーを築き甲子園1勝「大社さんもそうでした」

「秋の敗退から夏の栄冠へ」掛川西高校がフィロソフィーを築き甲子園1勝「大社さんもそうでした」

今夏の甲子園で1勝を挙げた掛川西高校。1年前の8月は「秋季大会初戦敗退」だった公立校が、どのように栄冠を手に入れたのか、その過程には“異端”ともいえるプロセスがあった。

2023年8月19日、掛川西は秋季高校野球静岡県大会予選の初戦で浜松工業に2-3で敗れた。この敗戦により、翌春のセンバツ出場は遠のき、8カ月後の春季大会まで公式戦がない長い秋が待っていた。

大石卓哉監督(44歳)は、この長い期間をどのように過ごすべきか考えた。初戦敗退後、他校の試合を観戦し、力の差を痛感した。そこで、大石監督は「今までと同じ過ごし方をしていたら、夏も県で優勝できない」と考え、1つの結論を出した。「掛川西のフィロソフィーをつくろう」というものだった。

大石監督は3カ月かけて、チーム方針やルールを明文化した。その内容は、練習と並行して、チームの方向性を明確にすることを目的としていた。フィロソフィーの最初のページには、以下のような内容が記されている。

《目的……社会で必要とされる人間になる 目標……甲子園ベスト8 掛川西高校野球部は掛川市民からの期待を一身に背負った市民球団である。また、県内選手で構成された「最後の砦」として本校が甲子園で躍進することは、多くの静岡県民の悲願である。この計り知れないプレッシャーから逃げることなく、全県の期待を力に変え、日々目標に向かって大きく進撃することこそ、我々の使命である。》

フィロソフィーには、走攻守における判断の基準や練習試合の狙い、練習の心得、怪我を避ける行動など、多岐にわたる内容が含まれている。中には「ポケットに手を入れない」といった具体的な禁止事項も含まれている。

大石監督は、選手たちが自分たちで決めたルールを守ることの重要性を強調した。「勝てないのはお互いに課題があったからです」と、改善に至るためのステップを明かす。「秋の大会で初戦敗退した現実を指導者も選手も受け入れなければ、前に進めないと思っていました。ヘボ同士なんだから、せめて同じ方を向こうという思いをフィロソフィーに込めました」

フィロソフィーは、選手たちが日々の練習や練習試合を通じて修正や加筆を提案し、チーム全体が納得する形で更新されていった。内容を理解しているか確認するテストも実施された。

指導の基準が明確になったことで、選手との信頼関係が築かれ、距離感も縮まった。高校野球の“常識”とも言える絶対的な上下関係ではなく、対等に近い関係性が生まれた。時には、選手から大石監督に鋭いツッコミが入ることもあった。

練習試合で審判の判定に対して大石監督がベンチでぼやくと、選手から「相手を尊重」、「スポーツマンシップを守りましょう」と指摘されることがあった。フィロソフィーには、スポーツマンシップに関する項目があり、「相手の人格を傷つける野次、審判への暴言や不満の表明は厳禁」と書かれている。大石監督は、「選手に『冷静さを欠きました。以後、気を付けます』と謝ると、『そういう前向きな気持ちは良いと思います』と返ってくるんです。生徒に怒られる関係は何なんだろうと少し落ち込みますね」と笑う。

掛川西は、26年ぶりに夏の甲子園出場を決め、白星もあげた。秋の大会で初戦敗退となったどん底から、約1年をかけて静岡県の頂点へ上り詰めた。大石監督は、大社高校の練習を見たことで、転換した指導方針が間違っていないと確信した。大社高校の石飛文太監督がリラックスして選手と楽しそうに声を出していたことから、「選手を信じている」という姿勢を感じたという。

大社高校が地元・島根の選手だけで甲子園に出場し、優勝候補の報徳学園に勝ったことを見て、「このやり方で良いんだ」と自信を持てた。大石監督は、選手との距離感に悩まなくなった今、チームの方向性が明確になり、1つになれたことを実感している。