「侍タイムスリッパー」:自主制作映画が時代劇愛で全国を沸かす

「侍タイムスリッパー」:自主制作映画が時代劇愛で全国を沸かす

「侍タイムスリッパー」の魅力と成功の秘密

2024年7月、カナダで開催された国際映画祭で万雷の拍手を浴び、「観客賞金賞」を受賞した自主制作映画「侍タイムスリッパー」(通称「侍タイ」)が、日本でも大きな話題を呼び起こしています。この映画は、時代劇愛にあふれ、自然と涙があふれるという評価を受け、SNSや口コミで広く話題となりました。8月には池袋の映画館1館のみでの上映だったのが、今では全国130館以上での上映にまで拡大しています。

作品の概要

「侍タイ」は、幕末に生きる侍が現代の時代劇の撮影所にタイムスリップし、「斬られ役」俳優として「第二の人生」に奮闘する物語です。コメディと人間ドラマが交錯し、観客の心をつかむ作品となっています。低予算の自主制作映画ながら、爆発的なヒットとなり、『カメラを止めるな!』の再来との声もあがっています。

観客の反応

「侍タイ」の魅力を徹底取材した「めざまし8」は、上映中の映画館で観客の声を聞きました。7回見たという観客は、「今日は2回見て、トータル7回目なんですよ」と語り、14回見たという観客は、「映画を見ているというよりかは、(映画に)出てる人に会いに行く感覚」と述べています。池袋シネマ・ロサの支配人、矢川亮さんは、「お客さまが何度も当館にもご鑑賞いただいており、1人2人とファンを増やすような活動を熱心にしてくださっているのを実感しています」とコメントしています。

主演俳優と監督の声

「侍タイ」で初の長編映画主演を務めた俳優の山口馬木也さん(51)は、ヒットの理由について次のように語っています。「全国の人に愛されていってもらえたらいいな」と思っていたのが、ここにきて急に人気にダッシュがかかり、少し追いついていないと感じています。また、観た人が「もっと多くの人に見てもらいたい」と思ってくれるという感覚を強く感じています。

監督を務めた安田淳一さん(57)は、映画監督とは別にもう一つの顔を持っています。彼は「京都で、映画とお米を作っている。安田淳一です」と自己紹介し、実際には「米農家 兼 映画監督」という異色の肩書を持っています。映画の制作スタッフは10人足らずで、監督自ら脚本、原作、撮影、照明、編集、整音、タイトルデザイン、現代衣装、車両、制作と11役を担当しました。

低予算映画の挑戦

安田監督は、自身の貯金をほぼ投げ打ち予算を捻出しました。撮影が終わった頃、預金通帳を見ると7000円しか残っていなかったそうです。川崎にある映画館が、宣伝費などが限られているという話を聞いて、垂れ幕を出してくれたほどの厳しい懐事情でした。

東映京都撮影所での撮影

「侍タイ」は、通常、低予算の自主制作映画では使えない時代劇の本場「東映京都撮影所」で撮影されました。これは、伝説の「斬られ役」福本清三さんとの縁があったからです。福本清三さんは、時代劇で「5万回斬られた男」として有名な人物で、安田監督は制作が決まる前から福本さんに主演をしてほしいと脚本を渡していました。しかし、2021年に制作を待たずに福本さんが亡くなってしまいました。

安田監督は、「これは本がおもろい。せやから、なんとかならへんかなと思って。安田さんに使わせたってええんちゃうとかね。嬉しかったです。職人の皆さんの人情みたいなものはね、すごく感じました」と語っています。福本さんの関係者や時代劇のプロたちが、映画を実現させようと声を上げてくれたことで、東映京都撮影所での撮影が実現しました。

映画のメッセージ

映画パーソナリティの伊藤さとりさんは、「エンドロールの一番最後に福本清三さんの名前が出て来るんですけど、だからこの作品を作ったんだって…。『愛とリスペクト』っていうものが作品全体に表れていましたね」と評しています。安田淳一監督は、「時代劇という、この素晴らしいジャンルがこれから続いてほしいなと。家族連れでみんなで楽しめる映画っていうのを僕としてはずっと作っていきたいと思ってるし、侍タイムスリッパーもそういう映画になってくれたらいいなと思っています」と語っています。

「侍タイムスリッパー」は、低予算ながらも心を揺さぶるストーリーと、時代劇への深い愛情が詰まった作品です。今後も多くの人々に愛され、時代劇の魅力を伝えていくことでしょう。