松山ケンイチが『虎に翼』の桂場等一郎を語る:武士の精神と司法の独立

松山ケンイチが『虎に翼』の桂場等一郎を語る:武士の精神と司法の独立

『虎に翼』の桂場等一郎役を演じる松山ケンイチ

NHK連続テレビ小説『虎に翼』で桂場等一郎を演じている松山ケンイチは、この役を「長い間やらせていただいていますので、僕の中でもすごく大切なキャラクターだと思っています」と語る。寅子(伊藤沙莉)が女学生だった頃から彼女と出会い、明律大学を経て日本初の女性弁護士、そして裁判官となった寅子の道のりを一貫して「ド正論」で支え続けている。

桂場は常に仏頂面で、何よりも「司法の独立、裁判官の資質、あんこの味」を大切にしている。正しく厳しく、時にはわかりづらい優しさも見せる。松山は、桂場のモチーフとなった石田和外さんについて、「小さい頃からずっと武道に携わった人。そんな精神、ある意味、武士の精神を桂場の中に取り入れたいと思いました」と語る。

武士の精神と司法の独立

本作の前に、松山は大河ドラマ『どうする家康』(2023年)で本多正信を演じていた。彼は、「武士は男性の職業、男性特有のものだったりもする。男性社会の中での立ち振る舞いや生き方、考え方、覚悟。自分自身もすごく研ぎ澄まされていく部分だったと思います」と振り返る。桂場は、司法の独立にものすごいこだわりがあり、そのために生きているようなところがある。少しでもブレるわけにはいかないため、自分をすごく律している部分もある。松山は、「もしかしたら、司法に携わる人には同様であってほしいと考えているのかもしれない」と述べる。

演じる難しさと甘いもの好き

松山自身の生き方は桂場と「全然違う」というが、甘いもの好きなところは似ていると微笑む。「前に、花岡(岩田剛典)が『法がそうなっているから』と餓死しましたが、桂場はどこかで線引きしている。そういうところは、生きるうえでなくてはならない感覚だったりするのかなと思って。そこは自分にも理解できるというか、近いなと思いました」と語る。

無視して食べればいいのに、食べない表情を変えず、自分の心情を説明することもない桂場。演じるうえでの難しさがあったのでは?「出てくるたびに煽り続けている感じ、するじゃないですか。僕はいつもそう思っていました。最初の頃『同じ成績の男と女がいれば、男を取る』みたいなことも言っていますし。ある意味、それが背中を押してもいるんですが、桂場ってそういうふうにしか表現できないんだろうなと思って」と松山は語る。

桂場の幅と表現

もし、それだけの人物であったなら魅力に欠けていただろう。「幅が狭くて、記号でしかなくなっちゃう。仏頂面をどこまで崩して、どこまで遊ぶのかは常に探していましたね。表情で表現できない代わりに、他の部分でできることはたくさんあるので」と松山は語る。伊藤沙莉は「迷いがない」と評する。その代表格は団子。食べようとした瞬間、寅子に話しかけられるのがお決まりだ。

「無視して食べればいいのに、食べない。話すなら(団子を)置けばいいのに、置かない。どういう人間性なのか、なんとなく伝わるじゃないですか。団子とトラちゃんの話、どっちを優先するのか迷ってるっていう表現になる。今回、そんな部分をいろいろと探れたし、試せた。記号的な桂場ではない、また違った見せ方をいつも考えていました」と松山は語る。

最高裁長官への就任と物語の展開

ついに桂場は最高裁長官に就任。物語は尊属殺の重罰規定について、違憲か合憲かを争う裁判へと進む。「桂場は平等性、公平性がすごくある人間だと思うんですが、穂高先生(小林薫)の思いを何とか完遂させたいし、任期の中で何とかしようと思っていたこともいろいろある。ついには自分の意見や公平性すらも切り捨てて、司法の独立のために舵を切っていく。トラちゃんや法曹界にいる人たちにとっての敵や壁になる瞬間があります」と松山は語る。

(寅子と桂場の)理想と理想のぶつかり合いのような展開が待っている。「ひとりの人間が最高裁長官になってジャッジをするのは本当に難しいことだし、時代によって正解も変わってくる。そして認めることは本当に大切なことだと思いますし、認めてからどう対峙し、付き合っていくのか。ぜひ最後まで見届けていただければと思います」と松山は語る。

伊藤沙莉のすごさ

桂場とは何かと相対することが多い主人公・寅子。演じる伊藤沙莉をどう見ているか?「僕なんかよりも出番が多く、毎日撮影に励んでいる状況だと思うんですが、『電池切れ』みたいになることがまったくない。それは本当にすごいと思います。僕は大河ドラマ(『平清盛』2012年)で経験していることなんですけども、電池切れになると役の方向性が迷子になったりする。それを修正しようとすることさえ考えられなくなる状態は何度か経験しているんですけども。なんとなく沙莉ちゃんを見ていると、迷いがないように感じていて。そこが本当にすごいなと思いますし、体力があるな~って思います」と松山は語る。

『虎に翼』は毎週月曜日から土曜日の朝8時から(NHK総合)ほかで放送中。松山ケンイチの桂場等一郎と伊藤沙莉の寅子の演技に注目だ。