「武士の精神」を取り入れた役作り——連続テレビ小説『虎に翼』最終週に向け松山ケンイチが語る

「武士の精神」を取り入れた役作り——連続テレビ小説『虎に翼』最終週に向け松山ケンイチが語る

「武士の精神」を取り入れた役作り——連続テレビ小説『虎に翼』最終週に向け松山ケンイチが語る

NHK総合で放送中の連続テレビ小説『虎に翼』がいよいよ最終週を迎えます。本作は、日本初の女性弁護士で、のちに裁判官となった三淵嘉子さんをモデルにした主人公・寅子(伊藤沙莉)の人生を描く物語です。松山ケンイチが演じる上司・桂場等一郎は、常に仏頂面で堅物の役柄ですが、その切れ者ぶりと寅子へのサポートが物語の重要な要素となっています。桂場の志は高く、司法の独立を重んじてきた一方で、理想を追求しすぎることで亀裂も生じています。最終週では、桂場がどのようなジャッジを下していくのか、注目が集まっています。

松山ケンイチは、人気と実力を兼ね備え、常に入念なアプローチで役作りに臨むことで知られています。桂場の役作りについて、彼は「武士の精神」を取り入れたと語ります。

「最初に桂場を演じる上で、リサーチをしたり、監督と話し合ったりする中で、桂場のモデルとなった方が小さい頃から剣道をされていたことを知りました。武道に携わった人なら、武士の精神を桂場に取り入れたいと思いました。」

また、『虎に翼』の撮影に入る前に、大河ドラマ『どうする家康』で本多正信役を演じていたことも、桂場の役作りに影響を与えました。

「武士は男性特有のものなので、男性社会での立ち振る舞いや生き方、考え方を桂場に取り入れたいと思いました。もちろん、女性に対して厳格な態度は男性に対しても同じだったと思います。物事をどのように考え、どのように向き合うかという覚悟を、非常に研ぎ澄ませていきました。」

「司法の独立」を保つことは決して容易ではありませんが、桂場はその理想を貫くために頑なに自分を律しています。

「彼は、司法の独立のために生きているようなところがあります。少しでもその理想が揺らぐわけにはいかないと、自分を律していると思います。また、司法に携わる人に対しても、同じような考えを持っていてほしいと願っているのかもしれません。司法の独立がなければ三権分立も成立しないので、非常に厳格にならざるを得ないと思います。」

松山自身と桂場との共通点や相違点について尋ねられると、彼は次のように分析します。

「私は桂場ほど考えて生きていないし、周りの常識やルール、法律を尊重しながら、自分がどのように心地良く幸せに生きていくかを考えています。桂場とは全く違います。私は法律自体を変えるようなことはせず、自分の意見を述べてその幅を広げていくような生き方はしていません。むしろ、緩さを持って生きているような気もします。」

しかし、桂場との共通点も存在すると松山は言います。

「桂場と私は全く違いますが、桂場は厳格さの中にも、団子が大好きという一面があります。これは人間として似ているかもしれません。私は甘いものが好きなので、その点では共通点があります。岩田剛典さんが演じた花岡悟は、法を守って餓死しましたが、桂場はそうではなく、どこかで線引きをしている感じがします。これは現代を生きる上で必要不可欠な感覚で、そこは自分と近いなと思います。」

桂場が愛する団子は、彼にとってなくてはならない必須アイテムです。松山は、小道具を使って表現することに興味があり、そのユニークなアプローチ方法について語ります。

「私は小道具を使って現場で遊んでいるのですが、SNSを見て『細かいところまで見てくれている人がいるんだな』とよく驚きます。それはすごいことだと思いますが、画面に映るすべてが表現につながることも怖いと感じます。だから、身体全体を使って、指先まで何を表現するべきかを常に考えています。」

松山の遊び心によって、桂場の多面的な魅力が際立っています。彼自身は、脚本や演出、共演者たちの受けによって桂場というキャラクターがより面白くなったと感謝しています。

「桂場は仏頂面が基本形なので、そこをどのように崩して表現していくかが重要でした。常に出ていて、自分の心情を説明するような人でもないし、出てくるたびに煽り続けるタイプです。例えば、『女性は男性より何十倍も勉強しないとダメだ』といったことを最初から言っていますが、その煽りが背中を押すこともあります。桂場は、そのような表現しかできないんだと思います。」

桂場は、単に意地悪なキャラクターではありません。

「意地悪な感じだと、役の幅が狭まり、記号的になってしまいます。どの役でもそうですが、記号をどのように今まで見たことのないものにできるかが大切です。仏頂面の桂場は、顔の表情で表現できない代わりに、手や仕草で表現できることがたくさんあります。」

実際に、団子を食べようとした瞬間、寅子に話しかけられて手を止めるという仕草が何度も笑いを誘ってきましたが、そのくだりは脚本には書かれていなかったそうです。

「せっかく目の前に団子があるから、これを利用しない手はないなと。話しかけられても、それを無視して食べればいいのに食べないという桂場の人間性が、見ている方にも伝わるかなと。一度、団子を置けばいいのに桂場は置かない(笑)。その仕草で、団子と寅子の話のどちらを優先するのかを迷っているという表現になります。今回は、そのような場面を試せて、非常に勉強になりました。また、それをやらせていただけた現場の皆さんにも感謝しかないです。」

寅子と桂場のやりとりは、コミカルなものからシリアスなものまで、数多くの見せ場となっています。寅子役の伊藤沙莉については、松山は賛辞を惜しみません。

「出番が多く、毎日撮影に励んでいる状況ですが、電池切れになることが全くありません。本当にすごいと思います。私は大河ドラマで何度かその経験をしていますが、電池切れになると役の方向性が迷子になり、それを修正することすら考えられなくなってしまうことがあります。しかし、沙莉ちゃんは迷いがない感じがします。年齢によって演じる環境や立ち位置は変わっていくし、それぞれ曲げていかなきゃいけないと思いますが、沙莉ちゃんはそこも迷いなくやられていますし、体力もあるなと感心します。」

少年犯罪の厳罰化が懸念される中、法制審議会少年法部会の委員となった寅子が、最終週でどのように奮闘していくのか。その鍵を握るのが、最高裁判事である桂場です。松山によると、「理想と理想のぶつかり合いが展開される。桂場は寅子にとっての味方でもあるけど、時には敵にもなる」とのことです。

改めて、松山は桂場について次のように語ります。

「長い間演じさせていただいて、私の中でも大切なキャラクターとなりました。私は演じる役に自分の理想を込めるところがあります。私は法曹界の人間でもないし、ただの田舎のおじさんですが、人権や権力に対して戦う人はこうであってほしいという思いが、このドラマにもかなり作用されたような気がします。」

「もちろん、誰しも日本の全国民を見ることはできませんし、地域によって文化も異なる中、日本全国一律の法律を作ることは非常に大変なことです。ましてや1人の人間が最高裁長官としてジャッジをしていくなんて、本当に難しいです。時代によって正解が変わっていくし、人はみんな間違うのが当たり前のことで、『それは間違っているんじゃないか』というところから議論が始まっていくんだと思います。間違いを認めることも大切で、そこから対峙していくことが人権を大切にすることだと思います。このドラマは、人間に対する優しさを感じられる人間讃歌のドラマになっていると思いますので、ぜひ最後まで見届けていただきたいです。」

松山ケンイチは1985年3月5日生まれ、青森県出身。2002年にドラマ『ごくせん』で俳優デビューし、2006年の『デスノート』『デスノート the Last name』で大ブレイク。大河ドラマ『平清盛』(2012)で主演を務め、『どうする家康』(2023)にも出演。近年の主な映画出演作には『BLUE/ブルー』(2021)、『ノイズ』(2022)、『川っぺりムコリッタ』(2022)、『ロストケア』(2023)、『大名倒産』(2023)などがあります。染谷将太とのW主演映画『聖☆おにいさん THE MOVIE~ホーリーメン VS 悪魔軍団~』が12月20日に公開予定です。